帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など多数の著書がある
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など多数の著書がある
中村元さん (c)朝日新聞社
中村元さん (c)朝日新聞社

 西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「縁起を大事にする」。

【写真】中村元さん

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【ポイント】
(1)縁起の考え方は仏教から来ている
(2)個々の存在が偉大な宇宙を内に秘めている
(3)孤立した個人はありえない、縁起こそ大事

 縁起がいいとか、悪いとか言います。縁起って一体何なのでしょうか。一般には吉凶の前兆のような意味で使われますね。でも、縁起の考え方は元はと言えば、仏教から来ているのです。

 仏教学の世界的権威である故・中村元(はじめ)博士はこう解説しています。

「縁起というのは、縁(よ)って起こる、つまりいかなるものも孤立して存在しているのではない、お互いに影響しあって成立しているというのです」

「感覚器官を通して(中略)何らかの像に構成しているというのが、我々の精神作用の構造でございましょう。けれどもその奥には、目に見えない関係・因果の連鎖というものがあるわけです」(いずれも『温かなこころ 東洋の理想』春秋社)

 この道理について華厳宗の経典では「芥子須弥(けししゅみ)を容(い)る」というのだそうです。つまり芥子粒のような小さいものの中に、須弥山(しゅみせん)といった途方もなく大きい山が入っているというわけです。

「目に見えなくとも、個々の存在が偉大な宇宙を内に秘めているということになりますし、遠い過去も、はるか彼方なる未来も、個人存在の中に凝集していると言うことができるわけです」(同)

 中村博士の解説はさすがに核心をついています。私たちが目で観て、感じている世界はほんの一部分だけなのです。私たちの一挙手一投足は、その一部分の動きに従っているのにすぎません。縁起が一般に吉凶の前兆の意味で使われるのは、未来をも内包しているという道理から来ているのでしょう。

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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