「当時の書物には、同性愛者を沼地に捨てる風習があったと記されている。DNAの状態が悪いため、残念ながら2人の関係はわかりません。湿地帯で見つかった遺体は、暴力を受けた痕跡が多くみられる。彼らは、処刑や大地母神への捧げものとされたという説もあります」(坂上さん)

 そして、太平洋に位置するオセアニアでもミイラの存在が確認されている。

 パプアニューギニアでは人型をつくることで、死者や精霊を崇拝する土地の文化や死生観を表す。

 頭蓋骨(ずがいこつ)を粘土や樹脂で肉付けと装飾をほどこす「肖像頭蓋骨」。この描き方を見て欲しい。

「同じ部族なのに顔の描き方がぜんぶ違う。つくり手が思いを込めながら、頭蓋骨の持ち主の生前の姿を再現した証しです」(坂上さん)

 欧州の植民地になると「野蛮な風習だ」と禁じられ、この文化は途絶えた。

 注目は、パプアニューギニアのアンガ族の酋長(しゅうちょう)が1世紀ぶりとなるミイラづくりを行う場面を、文化人類学者がカメラで撮影した映像だ。高温多湿のこの地では、何十日もかけて遺体を燻製(くんせい)にしてミイラにする。映像では、燻製(くんせい)にしている酋長の遺体を家族が大切に扱う様子が残っている。

「酋長は、文化を記録したいという思いで、自分のミイラづくりの撮影を許可したと聞いています。パプアニューギニアと聞くと呪術的なイメージを抱くひともいるでしょう。でも、根源にあるのは、『死んだあともその姿を残して家族を見守ってほしい』という生きる者から死者に対する敬意と愛情です」(坂上さん)

 会場の最後に設けられたのは、高温多湿な日本に残るミイラだ。1832年ごろと見られる「本草学者のミイラ」。自らの遺体を保存する研究を続け、殺菌作用のある柿の種を大量に摂取するなどしてミイラ化したと考えられている学者である。

 そして来場者が静かに見つめるのが、福島県の貫秀寺に安置されている即身仏だ。悪病に苦しむ村人を救いたいと1683年、92歳で入定した。

 仏教的民間信仰の対象である即身仏は全国に20体ほどあるが、災害や生物、カビの被害にも遭う。即身仏を守り、保存するのは大変なことなのだ。

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不気味だとか負のイメージが強いが…