医療界では、「女性医師が増えると育児などで休職者が増え現場が困る」(現役医師)といった古い考え方が根強い。医師国家試験には、現役で医学部に入学した方が合格しやすいとの見方もある。

「医学部の使命は医師国家試験にできるだけ合格させ、優秀な人材を医療現場に送り出すことです。医学部の入試はほかの学部と違って、就職試験の意味合いもある。女性医師が増えると、外科など一部の診療科のなり手が少なくなるとも言われています。ほとんどの医学部が本音では、女性や多浪生よりも現役男性をとりたいと思っているはずです」(現役医師)

 医療界では働き方改革が遅れており、女性医師が働く環境整備はこれからだ。前出の医師の高梨さんは、医療現場が人手不足で疲弊していることは認めつつ、「だからといって入試で差別をすることは許されません」と訴える。今でも多くの医学部では面接や出願書類による評価が行われており、ブラックボックスのなかで差別が続く恐れもあるという。

「女性や多浪生というだけで、どれだけ試験で頑張っても、面接などで落とされるリスクがあります。差別をなくすには、面接の結果を本人に開示することが必要です。男女や現役・浪人の区分の入試データも公表し、文科省が毎年チェックすればいい」

 不正入試が発覚した大学では、本来合格するはずだった対象者に救済処置として追加合格を出したところもある。

 大学側の回答によると追加合格者は東京医科大44人(入学したのは24人)、順天堂大48人(1人)、昭和大33人(3人)、金沢医科大18人(6人)、日本大12人(3人)、北里大10人(4人)、神戸大2(1人)など。

 追加合格を出しても入学者が少数にとどまっていることからも分かるように、受験生の失われた時間は戻ってこない。差別によって医師への夢を絶たれた女性や浪人生もいるだろう。東京医科大や順天堂大など一部の大学では、被害を受けた受験生への保障を巡り裁判が続いている。それだけ影響の大きな問題なのだ。

 文科省は聖マリアンナ医科大を含め不正入試はすでに改善されており、追加調査などは予定していないという。継続的な入試データのチェックにも否定的だ。女性や浪人生への差別を本当になくすことはできるのだろうか。
(本誌・岩下明日香、多田敏男)

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