林:今、玉三郎さんは若い人たちに自分の芸を伝えようと一生懸命やってらっしゃいますけど、もうそのころからなさってたんですね。

河合:そうです。そのときは昼の部で「夜叉ケ池」の百合と白雪の二役をやらせていただいて、夜の部は「天守物語」で、玉三郎さんが富姫をやって、私は妹の亀姫をやらせていただいて、ほんとにいろいろ教えていただきました。

林:研修所出身の方はなかなかいい役がつかないと言われてますが、雪之丞さんは特別にいい役をおやりになっていたという印象があります。

河合:師匠の三代目猿之助は、実力主義というと手前みそなんですけど、抜擢する人だったんですね。私より1年早く歌舞伎から新派に移った喜多村(緑郎)なんかも立役として抜擢されましたし、歌舞伎界と血縁がない人でもいい役ができるんだというのは、うちの旦那が始めたことなんです。

林:三代目猿之助さんは「スーパー歌舞伎」をおやりになって、何人もスターをお出しになって大活躍でしたよね。今、お体は大丈夫なんですか。

河合:元気というか、病気は病気ですけど、ゆっくりしてほしいなと思ってます。ふつうの役者さんの10倍ぐらい突っ走ってきた方なので。

林:そうですよね、奥さまの(藤間)紫さんも亡くなって、がっかりなさったでしょうね。

河合:紫先生が亡くなって、もう10年ぐらいかな。旦那よりずっと年上でしたからね。

林:皆さんの面倒をよく見てくれたんですか。

河合:そうです、そうです。軽井沢に別荘があって、そこで毎年8月に1カ月合宿をするんです。お弟子さんが二十数人いて、食事も、紫先生が近くのスーパーに行って、トンカツだったらトンカツ用の豚肉を30枚とか買ってきて、台所でエプロンしてトンカツを揚げてましたよ。

林:中学生だった猿之助さんが紫さんを見て、「なんてきれいな人なんだろう」と思って、そのときからずっと憧れていたという有名な話がありますよね。

河合:そうです。女優さんとして活躍してらっしゃいましたから、われわれもいろんなことを教えてもらいました。芝居に関しても、もちろん踊りに関しても。

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