全く食べないのは二十日間で、あと二十日かけて元食に戻り卒業する、その間、掃除くらいさせられるが、そんなことも出来なくなり、ただ、うつらうつらと寝てばかりいる。

 食べないのには馴(な)れるが、元食にかえる時、同じ食堂でたきたてのご飯など食べている人をみると、殺してやりたくなった。出山釈迦のように骨と皮ばかりになって女子大に帰った時、皆に気味悪がられた。

 私は断食寮で教えられたことを、守りつづけ、砂糖は一切取らず、割合ぜいたくな女子大の食事も半分も食べなかった。しかし、体は次第に肉がつき、断食式の食事がすっかり身について、私は全く別の体に生まれ変わっていた。

 その後はほんとに丈夫になった。少し加減が悪くなると、一日、二日、断食すればすぐ治ってしまう。結婚して、北京へゆき、子供を一人産んで、終戦で親子三人で引きあげてきてからも、ずっと達者になった。婚家を着のみ着のままで飛び出し、小説を書き始めてからも、苦労はしたが、それを苦労と自分で感じたことはなかった。

 ヨコオさん、あなたのおっしゃる通り、健康は心の持ちようからですよ。九十二歳で、ガンが見つかった時も、即、切ってくれと医者に告げ、取ってもらいました。五十一歳で出家したことも健康の基になっていると思います。今、困っているのは、もう死にたいのに、一向に死にそうにないことです。

 ものが書けなくなれば、私の場合は、生きていても無用だと思います。

 ただし最近体は徐々に衰弱してきました。あとは呆けないで、さっぱりとあの世に旅立ちたいものです。

 それにしても寒いですね。でも今年の紅葉はかつてない程、きれいでしたよ。出家して四十六年にもなりました。

 あ、そうそう、まなほに十二月三日、赤ちゃんが生まれました。男の子で美男子です。頭の中身はまだわかりませんが──。二十日も早く生まれて親孝行な子です。まなほは益々元気一杯です。生きている私に、自分の赤ちゃんを抱かせたと、自慢していました。

 風邪がはやっているようです。ひかないようにしましょうね。

 では、また。

週刊朝日  2019年12月20日号