女子76キロ級の表彰式で銀メダルを贈られ、笑顔の皆川博恵(左)(c)朝日新聞社
女子76キロ級の表彰式で銀メダルを贈られ、笑顔の皆川博恵(左)(c)朝日新聞社
決勝でグレー(米)を攻める皆川博恵(右)=撮影・粟野仁雄
決勝でグレー(米)を攻める皆川博恵(右)=撮影・粟野仁雄

 9月22日に閉幕したカザフスタンのヌルスルタンでのレスリングの世界選手権。優勝して五輪切符をつかんだ57キロ級の川井梨紗子(24)と並んで大奮戦したのが女子最重量の76キロ級で銀メダルに輝いた皆川(旧姓鈴木)博恵(クリナップ)だった。

【写真】決勝でグレー(米)を攻める皆川博恵

 会場のバリス・アリーナでは、出番が来ると「HIROE MINAGAWA SUZUKI」と旧姓を交えてアナウンスコールされる。

 選手団最年長の32歳の大ベテランは、ナイジェリア選手、ブラジル選手、中国選手を倒して準決勝へ。エストニアの選手に先制のタックルを決めて4点リード、その後もバックを取り7対0で勝利して決勝進出を決めた。その瞬間に涙顔になった。東京五輪代表に内定したのだ。女子の重量級が世界選手権で決勝進出したのは2006年の浜口京子(アテネ、北京五輪で銅メダル)以来13年ぶりだ。涙をぬぐうと「これまでのレスリング人生、いろいろあったけどオリンピック内定を取ることができた。良かったなと思います」と静かに語った。

 翌日の決勝では世界選手権で4度優勝している米国のアデリン・グレーが立ちはだかった。リードされ、終了直前には両足を抱えたタックルもあったが倒し切れず敗れた。2対4の接戦。皆川は昨年まで2年連続銅メダルだった。

 京都府出身。父秀知さんの手ほどきで幼少時からレスリングをする。宇治高校(現・立命館宇治高校)では全国高校女子選手権で優勝(63キロ級)。立命館大学では全日本学生選手権の72キロ級で2連覇した。全日本選手権も5度制し、全日本選抜選手権(明治杯)8連覇中の実力者だが、あまり脚光を浴びなかったのは、同じ重量級で長年トップに君臨、ユニークな父親(アニマル浜口)とともに人気者だった浜口京子にどうしても勝てなかったからだ。

 浜口の引退後はトップとして君臨した。だが16年のリオ五輪は、前年の合宿中のひざのけがで選考対象になる世界選手権に出場できず涙をのんだ。「東京五輪は年齢的にも無理」と引退を決意したが、「けがだったので試合に出て締めにしたい」と考え17年のパリでの世界選手権を最後の試合と決めた。ところが大健闘で3位に入ったのだ。30歳で初めて世界選手権のメダルを獲得した瞬間、心が揺らぐ。「まだ体も動く、レスリングは楽しい」と確信し、「引退」をそっとひき出しにしまった。

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「夫の協力に感謝したい」