帝京平成大学教授・松井輝明医師 (写真/田村裕未)
帝京平成大学教授・松井輝明医師 (写真/田村裕未)

 近年注目される腸内フローラは、その乱れにより全身のトラブルを引き起こす。帝京平成大学教授の松井輝明医師は、「大腸劣化」が起こっていることに危機感を覚え、著書『日本人の大腸は「劣化」している! 大腸活のすすめ』(朝日新聞出版)を発刊した。松井医師に一問一答形式で答えてもらった。

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Q1:書名の「大腸活」とは何ですか?

 一見「すごい腸活」という意味かと思う方もおられるかもしれませんが、そうではなく「大腸+活」の意の造語です。健康を保つには大腸を元気にする、活性化することが大切という意味を込めています。ここ数年の腸内フローラ(腸内細菌叢)ブームもあって「腸活」が流行っていますが、腸の中でも特に「大腸」が大事なのです。大腸には本来、人間が健康になるための機能があることがわかってきました。それを十分に発揮できるようにしてほしいという思いを込めています。

Q2:なぜいま、大腸が注目されるのでしょうか?

 近年、腸内細菌の遺伝子分析技術が飛躍的に進歩し、特に2000年代に入ると「次世代高速シーケンサー」の登場によって、一度に膨大な数・種類の細菌を短期間に簡単に調べることができるようになりました。その結果、我々の大腸内には千種類、100兆個以上もの腸内細菌が棲んでいて、健康維持に重要な役割を果たしていることがわかってきました。腸内細菌のほとんどは大腸にいて、我々の食べるものや生活習慣で菌種や数が変わります。特に食生活の影響は非常に大きい。私たちにとって腸内細菌は、いわば自分の大腸の中に飼っているペットのようなもの。飼い主がきちんとケアしてあげれば、活発に健康のために働いてくれます。しかし、最近の日本人の食生活の欧米化やライフスタイルは大腸の健康維持とは逆行しており、実際に「大腸劣化」とも言える状況が起こっていることに危機感を覚えています。

Q3:“大腸劣化”とは具体的にどのようなことですか?

 大腸の病気にかかる人が増えていることを「大腸劣化」と呼んでいます。現在、日本人が最も多くかかるがんは「大腸がん」で、男性のがん死亡原因3位、女性は1位。昔の日本人のがんの中では、大腸がんは決して多くはなかったのですが、ここ半世紀の間に死亡率は男性が8倍、女性は6倍にも上昇しています。その他、難病である大腸の病気「潰瘍性大腸炎」「クローン病」の患者数も増えており、日本人の大腸の健康に何か根本的な問題が起こっているとしか思えない状況です。また、身近なところでは便秘人口は国内に2千万人程度。高齢になるほど便秘は増えますが、小学生でも4割近くが便秘か、便秘予備軍であるという報告や、赤ちゃんの便秘の半数は0歳児から始まっているという報告もあり、便秘は思った以上に早くから始まっているという印象です。便秘は大腸内に毒素が溜まり、大腸劣化を引き起こします。

 実は、大腸はそもそも病気にかかりやすい臓器なのです。よく「人間の免疫力の7割は腸でつくられる」と言われますが、それは小腸の話。自分を守る免疫器官が備わっている小腸に比べると大腸は決して強い臓器ではありません。ですから、自分自身でケアをしなければ健康が保たれないのです。

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