僕は、飲食やってて申し訳ないのですが、グルメではありません。僕が店を選ぶ理由は、その店の居心地と人。店員さんとの距離感が大事です。以前、近所によく行く居酒屋がありました。とある芸人さんと週に2回は行ってました。その芸人さんは大体ハイボールを頼みます。だけどある時、確かに飲み切ってはいたんだけど、次を頼む前に、店員さんがハイボールを持ってきたんです。

 その1回で、その芸人さんの気持ちが折れる音がしました。なんか、「違う」と思ってしまったのです。だって、次はもしかしたらハイボール頼まないかもしれないし。ていうか、店を出るかもしれないし。距離感が近すぎた故の小さな事故。だけど、こういうことで店って変わってしまう。だから飲食店って難しい。

 長年、飲食だけでやっていけるお店は奇跡です。ちょっとツボを押し間違えただけで、選ばれない店になる。それを肝に銘じて、長く愛される店、やりたいな。6千万円。高すぎる勉強代。

週刊朝日  2019年10月4日号

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鈴木おさむ

鈴木おさむ

鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。

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