[左]ジム・ロジャーズ/1942年、米国アラバマ州出身の世界的投資家。ウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロスと並び「世界3大投資家」と称される。2007年に「アジアの世紀」の到来を予測して家族でシンガポールに移住。現在も投資活動および啓蒙活動をおこなう [右]古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。主著『日本中枢の崩壊』(講談社文庫)など (撮影/写真部・掛祥葉子)[左]ジム・ロジャーズ/1942年、米国アラバマ州出身の世界的投資家。ウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロスと並び「世界3大投資家」と称される。2007年に「アジアの世紀」の到来を予測して家族でシンガポールに移住。現在も投資活動および啓蒙活動をおこなう [右]古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。主著『日本中枢の崩壊』(講談社文庫)など (撮影/写真部・掛祥葉子)
古賀茂明 (撮影/写真部・掛祥葉子)古賀茂明 (撮影/写真部・掛祥葉子)
 ウォーレン・バフェット氏、ジョージ・ソロス氏と並び「世界3大投資家」と称されるジム・ロジャーズ氏が9月、来日した。元経済産業省官僚の古賀茂明氏が対談し、10月に迫る消費増税への危機感を露わにした。

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古賀:ロジャーズさんは本の中で、安倍政権の政策をいろいろと批判されていますが、その中で最も問題と思われることは何ですか?

ロジャーズ:最大の問題は安倍さん自身です(笑)。日本は大好きで、素晴らしい国だと思っていますが、残念なのは、毎年、毎日、人口が減っていること。このままでは、生活水準を切り下げるしかないのに、それが嫌なので、借金をして生活を維持している。借金はどんどん増えていく。計算すればわかりますよね。これは意見ではなく、事実。日本政府と日銀はビジネスでお金を稼ぐのではなく、紙幣を刷り続けて日本経済を維持しようとしている。おかげで株価は上がったが、それで国民が豊かになったわけではない。これはおかしいでしょう。日本人も本当はわかっているはずです。このままじゃ危ないと。だから、私は2018年秋に日本株を全て売ったのです。

古賀:10月から消費税が8%から10%に上げられます。財政規律、財政赤字を改善する目的はありますが、景気が下り坂なのに増税するのはどうなのかという議論があります。

ロジャーズ:増税で、経済にプラスのインパクトを与えたことは過去にありません。あなたがお金を使う場合と、安倍さんがあなたのお金を使う場合、どちらが上手にお金を使うと思いますか? 増税して安倍さんが新幹線や高速道路を造っても、あなたや国民生活にメリットは少ない。

古賀:そうすると、税収を増やし、国民生活も豊かになるという成長戦略を考える上で、何が一番大事でしょうか。

ロジャーズ:財政をジャブジャブ使わないで、もう少し上手にやりくりしたほうがいい。国民が自由に使えるようにするか、もしくは貯蓄したほうがいいと思いますが、安倍さんは貯金するような人ではなく、バラマキをするタイプでしょう。

古賀:むしろ、減税してそのお金を国民が使ったほうがいいと。

ロジャーズ:そうです。大きな政府より小さな政府のほうが効率がいい。今の時代、借金を増やすこと自体がナンセンスなので、減税して国民が使ったほうがいい。

 
古賀:アメリカで話題になっていますが、日本でも、最近、モダン・マネタリー・セオリー(MMT、現代金融理論)を唱える政治家が増えています。野党や新しい勢力が、「財政赤字のことなんか心配せず、どんどん使えばいいんだ」と主張しています。それで、「金返せと言われたら、政府が金を刷って返すだけだから何の問題もないだろう」という考え方について、どう思われますか。

ロジャーズ:この手の話で簡単な答えはありませんが、皆が簡単な答えを求めています。「資本」は必要です。だけど実際、MMTを主張しても経済的に合理性がないので、継続するわけがないと思います。お札をどんどん刷っても株式市場は、バブルが崩壊する、29年前の1990年ごろに比べると、50%も下がっているという状況ですよね。

古賀:私はMMTをモダン・マネタリー・セオリーじゃなくて、モダン・マネタリー・テロリズムって呼んでいるんですよ。

ロジャーズ:おもしろい。私の考えと同じだ。ぜひそう書いてください。

古賀:さっき話題になった90年代から2000年代前半にかけてのバブル崩壊の後処理の際、私は産業再生機構を立ち上げてその運営に携わりました。そこで見たのは、政府や銀行が経営破綻したゾンビ企業を税金で助けようとする姿でした。一部の企業については、大胆な破綻処理をやったのですけど、ほとんどは不十分なまま政府が中途半端に助け、それが、尾を引いているような感じがします。

ロジャーズ:皆、フリーランチ(ただ食い)をしたかったんですよ。本当は破綻処理をして、ゼロからスタートすればよかったのに、それがうまく行われていなかった。いわゆるお金を持っている人が、間違った人に渡して、間違った人たちが運営しているから、うまくいくはずがありません。

古賀:ロジャーズさんは「オリンピックは日本の衰退を早めるのではないか」と主張されていますが、どういうことですか。

ロジャーズ:五輪をやれば、首相としては、海外からもいろいろな来賓が来るし、日本中で写真がたくさん撮られて報道され、特需もある。最高ですよね。私も観戦チケットはほしい(笑)。しかし、過去、オリンピックが国や国民を救ったケースはありません。1964年の東京オリンピックは、世界中の人たちに、日本が素晴らしいと認められたオリンピックでしたが、日本がそれによって救われたわけではありません。アメリカはアトランタで96年にやりましたが、それからのアメリカ製造業はずっと下がっている。

 
古賀:私はオリンピックの開催期間は、ちょっと海外に出ていようかなと思っています。

ロジャーズ:ちょっとじゃなくてずっと日本にいなくても、いいんじゃないですか。(編集部のスタッフに向かって)若い人も日本を出なさい。パスポート持っていますよね。

古賀:日本は今、インバウンドで潤っていて、それはとても大事なことだと思います。けれど、安倍さんはそれをさらに増やすための一つの柱としてカジノを造ろうとしています。この政策については、どう考えられますか。

ロジャーズ:私は、カジノのギャンブルはしませんし、興味ありません。ギャンブルは結局、ギャンブラーが負けるように設計されているのです。シンガポールもカジノができて立派なビルができた。でもそれは、カジノ業者が儲かっているからであって、国民が豊かになっているわけではない。オリンピックもそうですが、日本は短期的に訪日外国人を呼ぶ政策だけでなく、移民政策を積極的にやったほうがいい。富士山を見に来る外国人はいても、実際に住もうとする人は少ない。2018年の日本の出生数は91万8397人と過去最低を更新中で出生率も1.42と低い。人口が減っているので何とかしないと。

古賀:その一方で日本の高齢者人口は過去最高で、総務省の発表では、65歳以上の高齢者の人口が前年比32万人増の3588万人で、総人口に占める割合が28.4%と世界一、2位のイタリア(23%)をはるかに上回っています。

ロジャーズ:高齢者が増える一方で若者や人口が減っているので、何かしないと、日本が滅びる可能性があります。将来、日本のおいしい寿司が食べられなくなるかもしれない。世界一おいしい日本のイタリアンレストランもどうなるのか。日本人女性も少なくなってしまいますよ(笑)。現在の日本の人口を維持するには、女性ひとりあたり2.07人の子供を産む必要があります。出生率を上げられないのであれば、外国から移民を受け入れるほかありません。この意見に対し、異論はあるでしょうか。簡単な算数ができれば、誰でも答えはわかります。

(構成/本誌・田中将介)

週刊朝日  2019年10月4日号より抜粋

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古賀茂明

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古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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