ただ、全員と交わす「共同確認書」にはギャラの配分などは記載されず、芸人の権利を具体的に守るような内容ではない。専属マネジメント契約や専属エージェント契約を結べるのは、6千人の中でも売れている一部に限られるとみられる。

 この日の委員会では、「会社は優越的地位を使うのではなく、タレントさんを守る契約であってほしい」と、懸念を示す意見も出たという。

 川上氏はギャラの配分について、「個々の事情があるので丁寧に説明してやっていくことが大事」だと述べた。

 吉本の信頼が揺らいだ大きな原因は、会社が情報開示を抑えたことや、岡本社長がパワハラ発言を認めたのに経営トップに居座っていることにある。岡本社長や大崎洋・吉本興業ホールディングス会長に権力が集中し、芸人や社員らが言いたいことを言えない組織になっているとも指摘されている。

 企業統治やパワハラの問題などについてはこれから議論していくというが、委員会の機能には制限がある。

 不祥事を起こした企業では、独立した第三者委員会が事実関係を調査し、原因の特定や責任の所在、処分のあり方について提言するのが一般的だ。だが、吉本の委員会は、あくまで経営陣にアドバイスするのが目的で、個別の案件などについて調査はしないという。これでは、岡本社長のパワハラ発言や、芸人の処分問題などには踏み込めない。

 この日の委員会では、「現場の声を聞いた方がいいのではないか」という意見も出たが具体策はこれから。経営トップを批判したお笑いコンビ「極楽とんぼ」の加藤浩次らから、直接話を聞く可能性は低い。芸人から話を聞かず実態が十分わからないまま、会社側の説明だけに基づいて、助言することになりかねない。

 吉本を巡っては、当初経営陣を批判していた芸人も発言を控えている。会社側としては芸人の発言を抑えつつ、委員会の開催などで改革姿勢を強調。謹慎処分の芸人の一部は、9月以降に徐々に復帰させる方針のようだ。

 暴力団幹部らのパーティーに参加したとして無期限謹慎処分となった漫才コンビ「スリムクラブ」の真栄田賢さん(43)は、本誌の直撃にこう語った。

「謹慎中の私が言える立場じゃないですが、ちゃんとします。芸人も社員も、みんなが気持ちよく爽やかに仕事できたらいいですね」

 委員会は8月中にも第2回を開く予定だ。事実関係の詳しい調査をしないまま、どのようなアドバイスができるのか。ファンの信頼を回復するには、委員会のあり方も問われている。
(本誌・岩下明日香、多田敏男)
※週刊朝日オンライン限定記事