たまたま実演販売のベテランの方が辞めたんです。「朝から晩までマジックができる!」と、親を説得して、会社を辞めました。

 実演販売をこなすうちに、プロのマジシャンになりたいと思い始め、腕試しをしたくなったんです。年に一度開かれる大会で東海一になり、全国大会でも優勝した。ハワイでの世界大会にも進んだんです。

――23歳でクロースアップマジックの部門で優勝。「プロになれる」と喜んだ矢先、衝撃を受ける。

 このとき、ゲストで来ていた本場の一流マジシャンを生で見て、「僕には無理だ」と悟った。美女が宙に浮くイリュージョンや、大がかりなトリック。外国人のマジシャンはスタイルもよく、衣装も所作も音楽も洗練されていてカッコいい。

 これから100年やったって、この人たちには及ばない。ショックを受けて、マジックの実演販売もやめてしまったんです。

 3カ月くらい漠然と日々を過ごしました。いい加減、仕事をしなきゃならない。かといって新聞で求人欄を見てもマジック以外にやりたい仕事がないんです。そんなとき、手品メーカーが新商品を売り出すことになり、実演販売員として採用されて、東京に出てきたんです。

――新商品はデパートで飛ぶように売れた。妻となる人にも出会った。

 そこのおもちゃ売り場にいたのがカミさんです。なんて働く子だろう、飯も食わずにと思った。彼女の家に転がり込んで、しばらく一緒に住んで24歳のとき結婚しました。

 そこから14年間、実演販売一筋でした。朝から晩まで好きなマジックができて、これでやっていけるだろうと思った。「マリック」と名乗り始めたのもこのころです。

 そのうちに手品グッズの専門店を開いたんです。海外から手品グッズを仕入れて売った。テレビ局の人が「新春かくし芸大会でタレントに手品をやらせたい」と買いに来て、それでタレントさんに手品を教えるようになったんです。

「少年隊」に飛行場で軽飛行機を消すというイリュージョンをやってもらって評判になりました。プロデューサーに「こういう番組を作って僕にやらせてもらえませんか」と企画したら、「無名だからダメ」と。じゃあ有名にならなければ、と。

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