当時、渋谷や川崎のライブハウスでやっていたんです。300人くらいの前に出ていくでしょう。半分の人は手を合わせて僕を拝んでるんです。でも、半分の人は暴露本を手に「トリックを見破ってやる!」と待ち構えている。「何をやってるんだろう?」とストレスを感じて、テレビに出られなくなってしまった。

――しばらくテレビから遠ざかるが、93年からバラエティーに進出し、復活を遂げた。つらい時期もさまざまな人に助けられたという。

 木梨憲武さんが僕をマネした「Mr.ノリック」というキャラクターを作ってくれて、子どものファンが増えました。マギー司郎さんはどんなにバッシングされても、蹴散らしてくれました。感謝しています。

――マリックさんを悩ませたのがスプーン曲げだ。それは70年代、ユリ・ゲラーの登場に遡る。

 あのころデパートで実演販売をしていると、お客さんが「あれはどうやってるんですか」と聞くんです。「どうやってるんでしょうねえ」と答えていたら、ある女性が「うちの子、あれをやるんです」と。その人の家に行くと本当に段ボール1箱分、曲がったスプーンが入っていた。子どもが曲げたことにショックを受けたんです。「これはマジックじゃないな」と。

 秘密を知ろうとアメリカに行きました。ユリ・ゲラーはさまざまな方法で曲げているトリックだと、教えられました。

 でも段ボール箱1箱分曲げた子は違いますよね。それが解せなくて、初代・引田天功さんにも聞いたら、「あれは暗示だ」と教えてくれました。暗示にかかると人は10円玉だって曲げることができるんだ、と。その後、8年くらいかけてスプーン曲げを身につけました。いま、ライブでみんな一緒にスプーン曲げをやっています。できる人は、たくさんいますよ。

――世の中で一番おもしろいのは不思議なこと、と語る。新しいマジックを考え、鍛錬を怠らない。

 人の驚く顔を見るためにこの仕事をやってきたようなもの。子どものころに手品を見せたら、みんながびっくりして笑った。あんな瞬間をずっと追い続けたいのです。

(聞き手/中村千晶)

週刊朝日  2019年7月19日号