だが何よりも大切なのは、やはり、しなやかな血管を保つこと。

「血管がしなやかで、血流もスムーズであれば、アミロイドβペプチドの排出機構もよく働きます。血液中の栄養素も脳に行き渡りますから、栄養不足による脳の機能低下も防げます。しなやかな血管を守っていくにはとにかく高血圧、糖尿病、脂質代謝異常症を遠ざけることです。そのためには定期的な健康診断は必ず受けること。そして少しでも悪い数値があったらその改善を図っていくことが、認知症予防の第一歩です」

 また、脳の老化のサインに敏感になることも広川医師はすすめる。

「脳の変化は必ず何らかの形になって、日常生活の中に表れています。『もう年だから仕方ない』『忙しいから仕方ない』などと言い訳したり、『自分は大丈夫』と根拠のない自信を持たないことです」

 疲労感や眠気がひどい、聞き返すことが増えた、反応が遅くなった、探し物が多い、やる気が出ない、甘いものがやめられない、つまずきや足がもつれることが多くなった、注意力が衰えた、朝までぐっすり眠れない「中途覚醒」や夜更かしが増えた、人の話や物語のストーリーが追えなくなった。以上のような症状で思い当たるものが多い場合は、要注意だ。

「『おかしいな』という状況は放置してはいけません。最初に気になった段階で、医療機関に相談しましょう。『認知症であること』を調べにいくのではありません。『認知症ではない』ということを確かめに出かけることが大切なのです」

 そして脳の機能低下を防ぐには、日々の暮らしの中で運動と食事に気をつかうことも重要だ。広川医師が著書『脳が若返るまいにちの習慣』(サンマーク文庫)の中から、脳の老化防止につながる運動やマッサージを教えてくれた。「親指パチン」は、足の筋肉を刺激する運動。足には大きな筋肉が集中しているので、足の筋力の低下は全身の血流に影響を及ぼす。足を鍛えることは、脳にとって、とても大事なことなのだ。

「また、高齢の方がつまずいて転倒したり、骨折したりして寝たきりになると、それが引き金となって脳の老化が一気に進んでしまうことも。認知症のリスクを減らすためにもぜひ今日から、『親指パチン』筋トレを始めてほしいと思います」

 そして脳の血流を上げるために行いたいのは「一分間耳たぶマッサージ」だ。

「脳に近い顔の筋肉をほぐすことで、血流アップを図るのです。私自身、朝起きたときや仕事の合間など、気がついたときに毎日行ってます」

 骨の刺激は、脳を活性化する骨ホルモン「オステオカルシン」の分泌を促すために行う。

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