『いち五、駒丸、八笑、さん太』。浅草演芸ホールの楽屋に行くと「邪魔にならない所に立ってな」と師匠。先輩前座が「いつから入ったの?」「名前は?」と話しかけてくる。会った先輩の名前を書き留める。次会った時に自己紹介してしまったら失礼に当たるから。現在の兄さん方の名前は「いち五→志ん好」「駒丸→馬治」「さん太→燕弥」。八笑兄さんはその年の夏に辞めてしまった。顔が長かったな。

『小いち 朝枝 朝左久(ちょうさく)』。「この中ならどれがいい?」と師匠。私の芸名の候補で、どうやら決めるのは私らしい。「小いちは可愛すぎだし、朝枝は『枝』がちょっと弱々しいかなぁ」「朝左久……ですかね?」「そうか? うん、俺もそれがいいと思ってた! じゃぁ、今日から朝左久!」。結局師匠が決めたんだけど。生命保険会社のメモ用紙にボールペンで『春風亭朝左久』と書いてくれた。その紙もメモ帳に挟んであるが、だいぶ黄ばんできたようす。

 皆さんがお休みの間、今年もそのメモ帳をめくって、初心に帰りひたすら喋るGWなのです。

週刊朝日  2019年5月17日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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