春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。新刊書籍『春風亭一之輔 師いわく』(小学館)絶賛発売中です。人生相談の本です!
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。新刊書籍『春風亭一之輔 師いわく』(小学館)絶賛発売中です。人生相談の本です!
イラスト/もりいくすお
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 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「10連休」。

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 今年は超大型連休。どうも毎年この時期は落ち着かない。いわゆるゴールデンウィーク(GW)は寄席の世界ではお盆・正月に次ぐ『かきいれ時』。世間さま同様に休むことなどあり得ず、喋り続けるのは当たり前。落ち着かない理由はそれだけじゃない。私がこの世界に飛び込んだのがちょうどこの時期だったから。ついその頃を思い出して胸がザワザワしてしまう。2001年4月27日に師匠・一朝に志願に行き、入門を許され、5月2日から師匠の鞄持ちを務めることに。正直こんなに簡単に事が運ぶとは思わなかった。

 2日の朝。師匠にまず、「見習いのあいだはなんでもメモしなさい」と言われた。「なんでもメモ」とメモしようとしたら、「いや……それは書かなくていい」。そのメモ帳をまだとってあるので、ちょっと覗いてみる。ちなみに字は殴り書き。

 5月2日の1ページ目、最初の言葉『挨拶 お礼 ちゃんとする』。子供じゃないんだから……とも思うが、基本中の基本。なにか頂いたりしたら、次会った時はちゃんとお礼。もしくは翌日電話。ただし11時以降。噺家は朝遅いから。

『ひこまる』。浅草で師匠にくっついてたら、向こうから林家正雀師匠が若者を連れて歩いてきた。師匠「これうちの弟子の川上君(まだ本名)」正雀師「これはうちの彦丸です」。入ったばかりの同期の彦丸君に会った。私23歳、あちらは18歳。今は二人とも完全におじさんだ。

『尾張屋 さん喬師匠ごち』。師匠と浅草の老舗蕎麦店・尾張屋に入った。「俺はもりでいい。そっちは天ぷらそばでいいよな?」と師匠。師匠は私を『そっち』と呼んだ。出てきて驚いた。こんなデカい海老ののった天ぷらそば初めて見た。まだ油がチュウチュウいっているかんじ。「うまい?」「はい!」。すると横をおじさんが「おさきー」と通りすぎていく。「兄さん、いたの?」と師匠。柳家さん喬師匠だった。「新しいお弟子さん?」「まだ名前ないけどよろしくどうぞ」「頑張ってね」と帰っていく。師匠が勘定をしようと立つと「さん喬師匠から頂いてます」と女将さん。「師弟でご馳走になっちゃったな……」と師匠は頭を掻いていた。

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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