フレイルとは虚弱という意味で、進行すると介護が必要な「老年症候群」になる。オーラルフレイルはその名のとおり、口の虚弱状態を示す。

 口腔機能の問題に詳しい鶴見大学歯学部教授の斎藤一郎さんは、オーラルフレイルの特徴的な症状として、「食事でむせる」「口が渇きやすい」「かみにくい」などを挙げ(下記の項目参照)、「こうした症状が一つでもあったら、オーラルフレイルの可能性がある」という。

「なぜ口の症状が全身の衰えのサインなのか。その理由は二つあります。一つは、口は食べる、話すなど、さまざまな機能を持っているので、衰えに気づきやすいという点、もう一つは口の周りや舌の筋肉は腹筋や太ももの筋肉よりも薄く小さい。それだけ筋力低下による症状が出やすいという点です」(斎藤さん)

 筋肉は全身にある。口周りの筋力の低下は、すなわち全身の筋力の低下を示しているというわけだ。

 口の症状で思い浮かべるのは、のみ込みが悪くなることで食べものが間違って気管や肺に入ってしまう誤嚥(ごえん)だろう。高齢者では肺炎の原因となり、最悪の場合、死に直結する。食べものがのどに詰まることで起こる窒息(ちっそく)もそうだ。

 冒頭で登場した患者らが通う多摩クリニックの院長で、日本歯科大学教授の菊谷武さんは、誤嚥や窒息だけでなく、かめない、のみ込めないといったことが、高齢者のQOL(生活の質)を低下させる要因だと指摘する。

「かめなくなると肉や野菜などの硬くて繊維質の食品は避け、軟らかいご飯やうどんなどを好むようになります。その結果、筋肉の材料となるたんぱく質や、体の機能を保つビタミンやミネラルといった成分が足りなくなる。結果的にカロリーは十分なのに栄養が足りない低栄養という状態を招いて、フレイルを引き起こしてしまう」(菊谷さん)

 実際、舌や口周りの筋力低下が全身に影響を与えることを示す研究もある。

 多摩クリニックでは外来を受診した100人(男性60人、女性40人)に舌圧と栄養状態などの関連を調べた。舌圧とは舌がモノを押すときに必要な筋力のことで、風船のような器具を舌で押すことで測定する。口の機能をみる指標になるとされていて、舌圧が高いほどよく、低くなると機能低下が疑われる。この結果、舌圧が低い人ほど食べる能力が低下し、全身の栄養状態が悪いことがわかった。加えて、食べる能力が低い人ほど生活に対する意欲も低下していることも判明した。

次のページ