口は食べるだけでなく、話したり、笑ったり、歌ったり、表情を作ったりと、コミュニケーションの手段としても、とても大切な役目をしている。この機能が低下することで、人とコミュニケーションをとるのが苦手になり、自宅にこもりがちになるというケースは、十分に考えられる。

 食べる能力が落ちてくると栄養がとれなくなって、筋力が低下する。そうするとさらにかむ力が弱まって食べる能力が落ちる。引きこもりのきっかけにも──。オーラルフレイルになると、こういう負のスパイラルに陥りやすいのだ。

 この負のスパイラルを断ち切るには、口の症状に早く気づき、早期治療ならぬ、早期から対策をとることが何よりも大事になる。

 まず、表に挙げた症状に心当たりがある人は、次のチェックをしてみよう。菊谷さんがお勧めする方法だ。

「思い切り歯を食いしばったら、両手の指の腹で左右の頬とこめかみを触ります。このとき、両方で力こぶのような筋肉の隆起に触れることができれば、まだ筋力は残っていると考えられます」

 頬の筋肉は「咬筋(こうきん)」、こめかみの筋肉は「側頭筋」といい、いずれもかむときに使う筋肉だという。

 また、硬めのゼリーを舌の上にのせて上あごと舌でつぶせるかどうかも、一つの目安。しっかりつぶせればOKだが、つぶせないようならオーラルフレイル予備軍の可能性大だ。

 では、ここからはオーラルフレイルを予防する、あるいは低下した筋力を維持、向上する方法を紹介する。

 斎藤さんが外来患者などに教えている「口周りの筋力アップ法」は、歯とくちびるの間に空気をため、その空気を<上→左→下→右>と移動させるというトレーニング。空気の代わりに舌を歯と口周りの間に入れて、グルリと回す方法でもOKだ。

「このトレーニングをすることで口の周りの筋力を鍛えることができます。舌を入れて回せば、舌の筋肉も一緒に鍛えられます。唾液(だえき)腺が刺激されるので、唾液も出るようになります。口が渇くドライマウスが気になるときは、試してみるといいでしょう」(斎藤さん)

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