福祉理美容に取り組む藤田巌氏 (c)朝日新聞社
福祉理美容に取り組む藤田巌氏 (c)朝日新聞社
主な福祉理美容の団体  (週刊朝日2019年4月12日号より)
主な福祉理美容の団体  (週刊朝日2019年4月12日号より)

 髪を整えたり、化粧をしたりすることが、ココロとカラダにプラスになる。そんな思いから、高齢者の自宅や福祉施設を訪れてカットやパーマをする福祉理美容が人気だ。認知症や寝たきりの人にも提供する。切っても切れない、髪と健康との関係。身も心も若返らせる取り組みをお伝えする。

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 横浜市で「福祉美容室カットクリエイト21」を営む藤田巌氏は、56歳で免許を取得した異色の美容師だ。勤めていた大手メーカーを定年退職する2年前のこと。早くから福祉理美容に取り組む一人で、2001年から店を開いている。

「美容師を第二の人生に選んだのは、偶然目にした新聞記事がきっかけです。施設暮らしの92歳の女性が内向きになって歩かなくなっていたところ、美容師が髪をセットしたら、元気を取り戻して施設内を歩くようになったという話でした」

 藤田氏は同じころ、病気で入院して美容院に行けない母に、「自分がカットしておしゃれをさせてあげたい」と思ったという。母のこともあって介護の勉強を始め、ホームヘルパー2級の資格も取得した。

 ある日、施設実習として老人ホームでのヘアカットに立ち会い、ショックを受けた。

「男性も女性もバリカンで刈り上げていました。施設カットと呼ばれ、介護する側もお年寄り本人も、手入れが楽になるという理由でした。女性が髪をそんなふうに扱われていたことに愕然として、自分なら美容と福祉を結びつけることができると思ったのです」

 ヘルパーの資格を持つ藤田氏は、高齢者に負担がかからないようにサービスを提供できる。訪問美容でも普通のベッドに寝ている状態で、専用器具を使ってシャンプーやカットをする。開業当初は苦戦したが、福祉美容室というコンセプトは徐々に浸透し、リピーターが増えていった。

 5年目ごろから老人ホームや老人福祉施設への訪問が増え、07年には訪問理美容専門の「出前美容室 若蛙(わかがえる)」を設立した。サービス料の一例を紹介すると、福祉施設ではヘアカット2900円、パーマ7900円、在宅訪問はヘアカット3900円、パーマ9900円(それぞれパーマはカット込み、在宅は交通費500円プラス)。シャンプーやシェービングもしている。

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