漢方は新しい時代に入った(写真/getty images)
漢方は新しい時代に入った(写真/getty images)

 2018年6月、漢方にとって大きな出来事があった。WHO(世界保健機関)が定める「国際疾病分類」の第11回改訂版(ICD-11)で、「伝統医学」として初めて、漢方をはじめとする東洋医学が第26章につけ加えられたことだ。これまで西洋中心だった医療界で、東洋医学の必要性が世界的に認められることとなった。今後、漢方の価値をさらに高めるためには何が必要なのだろうか。週刊朝日ムック「家族ではじめる本格漢方2019」では、慶応義塾大学医学部漢方医学センターの渡辺賢治医師を取材した。

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「国際疾病分類」とは、死因や疾病の発生を明らかにするための国際的な分類で、これに基づいて、死因や疾病の統計などが出されている。1900年からの歴史がある世界の医療保健統計の基盤となるものだ。

■西洋一辺倒の医療の中で見直されてきた東洋医学

「西洋医学のみだった『国際疾病分類』の中に、伝統医学として初めて漢方が入ったことは、非常に画期的なことなのです」

 そう話すのは、2005年以来、この国際疾病分類の作成を通じ、漢方の国際的普及のために尽力してきた慶応義塾大学医学部漢方医学センターの渡辺賢治医師だ。渡辺医師はWHOの中の伝統医学分類委員会の共同議長などを歴任してきた。日中韓を核とした国際チームにより、国ごとに違う解釈だった諸々の事象を統一する努力が実を結んだ。

 今回、東洋医学が加えられた背景には、近年、西洋医学の細分化が進み、からだ全体を診る医療が置き去りになってきた危機感と、疾病が生活習慣病ベースになり西洋医学のみでは対処できなくなってきた現実、西洋薬の副作用の問題といった点で、それらを補完できる東洋医学の必要性が改めて認識されたからだという。しかし、まだ東洋医学が国際的な医療としてのスタートラインについたにすぎないと渡辺医師は話す。

「もちろん画期的なことであるのは確かですが、あくまでも診断の体系が国際化されたということで、WHOが伝統医学の効果や安全性を認めたというわけではありません」

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