漢方の有効性、安全性を検証するための国際的なツールができたということだ。今後はこれを機に、医療としての効果や安全性についてのエビデンスの確立に向けての努力が重要になると渡辺医師は強調する。

「漢方は、医師の主観や患者と医師との信頼関係によって、成分がなくても効くプラセボ効果が起こるともいわれてきました。その評価を払拭するには西洋医学的なアプローチによるエビデンスの確立は重要です。ただし、漢方という医療の性質上、西洋医学のようなRCT(無作為二重盲検)といったクリアカットに効果を比較する臨床試験での検証だけでは評価は難しい面もあります」

 漢方のフィールドでも、今まで西洋医学同様のレベルで臨床研究は行われてきたが、十分とはいえない。また、漢方は個別化された治療であり、RCTがなじまない場合もある。

「そこで従来、漢方が重要視してきたリアルワールドデータを活用してエビデンスをつくれないかを考えています」

■ビッグデータの活用で漢方のエビデンスづくりを

 リアルワールドデータとは、臨床現場などから得られる個々の患者データだ。さらに検査値での評価ではなく、ペイシャント・リポーテッド・アウトカムという患者自身の症状に対するつらさの評価をとり入れたデータを活用したいという。

「ただし、西洋医学的な立場で考える場合にそれは正確なのか、そういう現象や患者さんの話をうのみにしていいのかという批判もあり、それらをどうクリアしていくかです」

 確かに西洋医学的な臨床研究の客観的評価は大切だが、実臨床でのリアルワールドデータや患者主観を重視するペイシャント・リポーテッド・アウトカムによる医療も魅力的だ。さらにIoTの発達により、血圧を24時間評価したり、何を食べたら血糖値が上がるのかといったことをデータに加えることもできる。それらを統合してビッグデータとして解析することが可能になっている。

「私たちはビッグデータ時代の漢方の研究の在り方についてずっと議論してきました。個別化医療である漢方のエビデンスとしては、リアルワールドデータにおけるビッグデータ解析が好ましいと思いますし、漢方薬の効果を偏見なく評価するためには、従来のRCTの手法が有用です。目的に応じて研究手法を使い分けられる時代になったということです」

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