そのドラマには、演出家の蜷川幸雄さんも出ていました。あの方は「自分は演技が下手だった」って言っていたけど、僕は割と好きでしたね。なんか「質感」がありましたね。社会性があるっていうか、その時代の、そのシチュエーションにちゃんと存在している人、というか。読解力のある人だからね。そうこうしているうちに演出家として有名になっちゃったけど。

 映像はやっぱり監督のものですからね。映像のときは、素直に監督に預ける。「お任せします」って感じです。右に行け、と言われれば、行きにくくても行こう、という。そうすると、後で見ると「なるほどね」って思う。

 対して、演劇は生身の人間がやるから、疑問を抱えたまま舞台に出ると、そのままお客に見えちゃう。そこを納得するために、演出家に質問したり、共演者に相談したりしながら創っていく。

――97年、「踊る大捜査線」でコミカルでとぼけた刑事課長を演じ、北村総一朗、斉藤暁とともに「スリーアミーゴス」と呼ばれる名物トリオが生まれた。踊る大捜査線シリーズ以外のテレビ番組やCMにも出演するほどの人気となった。3人は偶然にも舞台出身。その誕生秘話を知れば、人気は必然だったと思えてくる。

 あんな人気になると予想してなかったけどね。演出の本広(克行)さんがある回の、冒頭のシーンで事件の戒名(「○○殺人事件」などの名前)をつけるくだりを「3人でカットがかかるまでつないでください」って。まったくのアドリブです。

 スリーアミーゴスは3人とも舞台出身者ですが、僕らはドラマのなかで笑いの要素も求められているなと感じて、台本に書かれていない部分まで想像していました。演じるキャラクターはどのあたりに住んでいて、どんな店に飲みに行っているのかなどなど、人物の背景を3人それぞれが作っていた。だから、突然「つないで」と言われても、アドリブで、あうんの呼吸でできた。

 うそでしょ?というくらい、カットがかからなかったけど、延々とつないだ。「まさかこんなの使わないよね」って言っていたら使われて、それが「おもしろい」となったんです。

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