「それはメディアが勉強不足だからです。昨年11月14日、シンガポールでの日ロ首脳会談で『56年宣言を基礎にして交渉を加速化する』ことで合意しています。1月の会談で、プーチン氏はその合意について『約束した』と明言しました。もう後戻りはできない。一歩も二歩も前進しているのです。その事実を、日本のメディアはしっかり捉えていません」

「56年宣言は日本の国会が批准し、当時のソ連最高会議でも批准しており、法的拘束力を持っています。日本側全権として56年宣言をまとめたのは、外交官出身で衆議院議員だった松本俊一さんです。松本さんの名著『モスクワにかける虹』を読めば、歴史的経緯がよくわかります」
※(66年に出た『モスクワにかける虹』は、『増補・日ソ国交回復秘録 北方領土交渉の真実』として朝日新聞出版より3月7日に発売予定。解説は佐藤優氏)

――ラブロフ外相は歴史認識で日本側に譲歩を迫り、「北方領土という呼び方は容認できない」などと厳しい発言が目立ちます。

「戦中、戦後の国際的な手続きに基づいて正当に領土になったというロシアの主張は正しい。カイロ宣言、ヤルタ協定、ポツダム宣言などを踏まえて、北方領土は画定されたのです。45年2月のヤルタ協定では、ルーズベルト米大統領らが、日本から千島列島と樺太南部を返還させる見返りに、ソ連に対日参戦を求めるという密約がありました。日本が無条件降伏して受諾したポツダム宣言では、第8項に『日本の主権は本州、北海道、九州、四国及びわれわれの決定する周辺小諸島に限定するものとする』と書かれています。こうした歴史を正確に認識していれば、4島一括返還を主張することはできません」

――自民党は「4島一括返還」を党是にしてきたはずです。もはやまちがっているということですか?

「『4島一括返還』という言葉は、ソ連時代に『領土問題は存在しない』と言われたので、日本側は強く主張するために使った表現です。歴史的事実を知らない人が、いまでもそう言っているに過ぎません」

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混乱は外務省に責任