林:あの方が亡くなったとき、中高年の女性が落胆しちゃって、あらためて国民的歌手だったんだなということがわかりました。昔の映像を見ると、脚が長くてハンサムで、当時、すごい美男美女のカップルだったんだなと思います。

十朱:美女ではなかったけど(笑)。

林:十朱さんは、私が言うのもあれですけど、日本人が好きな女性ですよね。可愛らしく美しく凜としていて、長いあいだ「国民の恋人」という感じでした。

十朱:ありがとうございます。

林:……と言ったとたんに、急に思い出しました。映画「魚影の群れ」(1983年公開)。

十朱:ああ、あれ。いやあね(笑)。

林:私、見てびっくりしました。すごくだらしないお母さんの役で、ブラジャーが透けて見えるような服を着て、マニキュアもちょっと剥がれていて、男の人にもお酒にもだらしない感じで。あの「国民の恋人」が(笑)。

十朱:「やりませんか」ってあのお話が来たとき、私、ほんとにびっくりしました。いい年齢になっても明るい隣のお姉さんみたいな役しかやってなかったから、すごいジレンマだったんですよ。徐々にだったらいいのに、いきなりこんな役ですからね。

林:別れた旦那さんが緒形拳さんでしたよね。

十朱:ええ。夏目雅子さんが娘で。

林:娘と結婚する男の子が佐藤浩市さんで、すごくいい映画でした。佐藤浩市さんの頭に釣り糸がからまっていくとき、すごくコワかったのを覚えてます。

十朱:あ、そうですか。私、自分のベッドシーンが長くて、それだけしか覚えてないんです(笑)。

林:十朱さんがすごいグラマーだということに、みんなびっくりしたんじゃないですか。エロチックでした。

十朱:私、あのシーンはもう二度と見たくない(笑)。

林:そうおっしゃいますけど、「魚影の群れ」って「セーラー服と機関銃」も撮った鬼才・相米慎二監督の代表作で、しっかり名作のシリーズにも入ってますから、今はDVDでもすぐに見られますよ。

十朱:いえいえ、見たくないです。私にとっても自分の殻をやぶって演じることに目覚めた大事な作品ですが、あのシーンだけはどうか世に出ないでほしいと思ってました。そこだけ捨ててほしい。燃やしたい(笑)。

(構成/本誌・松岡かすみ)

週刊朝日  2019年2月22日号より抜粋