もちろん今も恥ずかしいわ! でも助かったのは、メリー・ポピンズの歌い方が、私自身の歌い方とは違うこと。声の出し方も違うし、アクセントも、歌い方も特殊だし。キャラクターになりきることができれば、自分を引き離してとらえることができるから。でも誰かに今、私のために一曲歌ってくれって言われたら、断るわ(笑)。人前で歌うのは本当に苦手です。

──メリー・ポピンズの歌い方を生み出すために、本格的なボイストレーニングに励まれたと聞きました。

 ええ、15年の8月にロブ・マーシャル監督から出演のオファーをいただいてから、ずっと取り組んできました。1年以上歌と向き合う時間があったから、曲が骨にまで染み入ってとても慣れ親しんだし、大好きになれた。幸運にも、2人のすばらしい歌の先生に出会えて、技術的にとても助けてもらえたし、ロブ・マーシャル監督もまた、私にどのように歌に取り組むかを教えてくれました。声の体操じゃない、歌で物語を語るんだ、完璧に聞こえるかどうかを気にする必要はない、って。それで私も気づいたの。たとえばライザ・ミネリは、歌が可愛く聞こえるかどうかなんて気にしていない。彼女が物語を語ってくれるから、歌を聞いた私たちはライザと一緒に旅に出ることができる。私がいいなと思うすばらしい歌手はみんな、完璧に聞こえるからじゃなくて、何かを伝えてくれるからなんだ、って。

──新作の曲のなかで、好きなのは?

「The Place Where Lost Things G o(幸せのありか)」(*2)という、亡くなったお母さんを恋しがる子どもたちに歌うバラードが、とても感動的でした。歌われているのは、「永遠に続くものはない」「今ここにいないだけ」という、子どもたちにも理解できる、喪失と向き合うための美しいメッセージです。メリー・ポピンズのいちばんやさしい、愛情あふれる顔が見られる瞬間でもあると思います。

──ところで、エミリーさん自身も“すべてにおいてほぼ完璧”に見えますが?

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