腰部脊柱管狭窄症では、加齢によって靱帯などの組織が分厚くなったり、椎間板が出っ張ったりする変化が同時に起こっている。除圧術では腰の後ろ側から切開し、神経を圧迫している骨や靱帯の組織をきれいに掃除し、本来のからだの機能はなるべく温存したまま、圧迫している要因だけを取り除く。

 具体的には、脊柱管が狭くなっている部分の椎弓という骨を部分的に削って圧迫を取り除く「開窓術(部分椎弓切除術)」や、椎弓を細工して新しい形につくり直す「椎弓形成術」が一般的におこなわれている。

 そのほか、左右どちらか一方に出ている椎間板ヘルニアなどでは、筋肉を片方だけはがして進入する「片側開窓術」で反対側の筋肉や骨を傷つけないようにすることもある。

 また、狭窄の箇所が多い場合には、複数の棘突起(背骨の後ろ側の棘のようにとがった部分)を真ん中で割り、広い範囲の除圧をおこなった後に棘突起を縫合する「棘突起還納式の椎弓形成術」を実施することもある。

 横浜南共済病院で整形外科部長・脊椎脊髄センター長を務める三原久範医師は、これらの手術を、皮膚を切開し直接あるいは拡大鏡で見て手術する直視下手術でおこなっている。

 一方で、山田医師は内視鏡という筒状の棒を入れて操作する内視鏡手術で除圧術をおこなう一人だ。切開のサイズが小さく、手術した日から歩けることが特徴だが、国内全体の手術の1割ほどしか実施されていない。

「圧迫を取るアプローチや椎弓形成の方法がいくつかあるうえに、直視下手術や内視鏡手術があり、除圧術といってもたくさんの種類があります。医師の得意分野やこだわりによって内容が少しずつ変わるので、10院あれば10通りの手術方法があると言えるかもしれません。患者さんにとってその細かな違いを理解するのは、かなり難しいことだと思いますが、担当医師のこだわりや熱意を聞くことには意義があると思います」(三原医師)

 だからこそ山田医師は「除圧術か固定術かの区別ができれば、細かい術式までは理解しなくてもいい」と話す。

「除圧術であれば基本的に同じことをする手術で、大差はありません。固定術に比べるとからだの負担や、手術リスクが低く、手術料金も安いのがメリットです。ただし、神経症状は多くが改善するものの、腰の変形やがたつきにともなう痛みは取れないことが除圧術のデメリットです」(山田医師)

 一長一短があるため、医師の間ではさまざまな研究や考え方のもと、今でも議論が交わされているという。判断は医師の経験とポリシーに委ねられている。

■術式を使い分ける病院を選択すべき

 それでは、医師によって判断が分かれるのはどのような症例なのだろうか。

「患者さんの腰痛が神経症状として出ているのか、曲がった背骨からくる痛みなのかを、手術前に鑑別する方法はいまだにないのです。その人の筋肉量や生活様式などにもよるため簡単には決められず、切開して見たとしてもわかりません」(山田医師)

 医師と改善が見込まれる症状についてよく相談し、術式のレパートリーを多く持っていてうまく使い分けている病院で手術を受けるのがいいだろう。山田医師は「除圧術か固定術、どちらかの手術しかおこなわない病院はおすすめできません」と語る。ホームページなどで下調べをするのが有効だ。

 また、「背骨の手術は、一度受ければ一生大丈夫」というものではないと話すのは三原医師だ。

「背骨は約25個の骨が連なっていて、一つの骨や椎間板が壊れたらその近くの骨や椎間板も弱くなっている可能性があります。つまり『いつか次の問題が起こる危険をはらんでいる』と考えておくほうがいいのです。そういう意味で、一生付き合えそうな信頼できる医師がいる病院こそがいい病院ではないでしょうか」(三原医師)

◯和歌山県立医科大学病院整形外科主任教授
山田 宏医師

◯横浜南共済病院整形外科部長脊椎脊髄センター長
三原久範医師

(文/小久保よしの)

※週刊朝日2月8日号から