ブレストサージャリークリニック院長・岩平佳子医師(本人提供)
ブレストサージャリークリニック院長・岩平佳子医師(本人提供)
乳房再建術(週刊朝日ムック『乳がんと診断されました』から)
乳房再建術(週刊朝日ムック『乳がんと診断されました』から)

 乳がんの手術で、乳房をすべて摘出してしまった場合に、失った乳房を作る手術が乳房再建術だ。インプラント(人工物)を使っておこなう人工乳房再建の、保険適用から5年以上経った現状に触れる。

【インプラントを用いた乳房再建術の流れはこちら】

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 乳がんの手術は、2010年代に入り、局所再発の危険性や残した乳房の整容性などさまざまな問題点に対する反省に基づいて、乳房全摘術+乳房再建術が見直されてきた。13年7月、シリコンインプラントを使う「人工乳房再建術」が保険適用となった。それまでの保険では、患者自身のおなかや背中の脂肪を切っておこなう自家組織再建手術しかできなかったが、これを機に乳房再建術のハードルが下がった。その結果、現在の各病院の乳房温存率の平均は概ね4~6割程度となっている。

 人工乳房再建術で乳がんの根治手術と同時に乳房再建を開始する(同時再建)場合は、摘出後すぐにエキスパンダーという乳房の皮膚や組織を伸ばす袋状の拡張器を入れる。通常8カ月後にエキスパンダーを抜去し、シリコンインプラントを挿入する手術をおこなう。日帰り手術も可能で、高額療養費制度を使えば、8万~10万円程度で受けられる。そのため現在では、乳房再建手術の約7割は人工乳房による再建術がおこなわれるようになった。

■要望を汲み取り慎重におこなう

 保険適用後、インプラントによる再建手術は年々増え、14年では約4千例だった年間手術数が、17年には約6500例になった。

「保険適用になってからは、それまで人工乳房の再建手術をおこなったことのない病院でも始めるようになり、年々増えてきました。ただ、今後は頭打ちになると思います」

 ブレストサージャリークリニック院長の岩平佳子医師はそう話し、その理由をこう続ける。

「人工乳房再建術は、エキスパンダーやシリコンインプラントをただ入れるだけなら比較的簡単ですが、患者さんに満足してもらう整容性に行き着くのはなかなか難しいのです。エキスパンダーを入れる段階から患者さんの要望を汲み取り、かなり慎重におこなうべき手術です。患者さんは個々に違う乳房を持っていますし、その人ごとの満足度もまちまちです。再建前の医師の説明とご本人の希望の間にギャップが生じてしまうケースも多いと思います」

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怒りを持って訪れる患者も