中国では、昔ながらの青空市場でモノを買う際も、決済になるとスマホを取り出してピピピと簡単に代金を支払える。そんな前近代的な取引形態と最新の決済事情とのギャップに、金融庁の遠藤俊英長官が中国視察の際に驚いた、との話が漏れ聞こえてくる。決済に関して中国は急発展した。

 日本は相変わらずの現金社会が続いている。優れた印刷技術で偽札が出回ることはまれで、犯罪が少ないため大量の紙幣を持ち歩いても安全。キャッシュレス化の必要に迫られなかった。

 一方で、現金決済はデメリットが多いことも事実だ。入金や引き出しのためにわざわざ銀行へ行く必要があり、時間的ロスが大きい。前日の売り上げを毎日銀行へ入金しに行く個人商店主も多いだろう。送金の際は現金書留で送るか、銀行口座にお金を入れなくてはならない。現金だとおつりの計算が大変だし、インフルエンザなどの伝染経路にもなりうる。脱税やマネーロンダリングも助長する。世界がキャッシュレス化しているのに日本だけ現金社会のままだと、外国人観光客が戸惑う……。様々なデメリットがある。

 世界中が携帯電話を使っているのに、日本だけは固定電話に固執している。日本のキャッシュレス化の遅れについては、そんな認識が必要だと思う。

週刊朝日  2019年1月18日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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