2020年東京五輪で選手に提供される食材の調達をめぐり、世界のメダリストたちが大会組織委や東京都に抗議をしている。いったい何が起きているのか──。
2020年の開催を控えて、今年もさまざまな問題が浮上した東京オリンピック・パラリンピック(以下、東京五輪)。予算は当初の見積もりの3千億円から2兆円にふくれ上がったと言われ、付け焼き刃な暑さ対策としてサマータイムの導入が検討されたり、“やりがい搾取”とたたかれてボランティアに1日1千円相当のプリペイドカードの支給を決めたことは、記憶に新しい。そんなぐずぐずっぷりに拍車をかけるように、新たに食材の「調達基準」が問題になっている。
五輪では、選手村や競技会場で使われる食材の「調達基準」が大会ごとに設定される。12年ロンドン五輪以降、その核になるテーマは「持続可能性」。“いま食べられればそれでいい”でなく、未来に悪い影響を残さない配慮をした収穫方法や生産工程が必要とされる。
たとえば、漁業では魚介類を乱獲しない。農業では森林伐採や水資源の過剰利用に配慮する。今回、東京五輪で問題視されたのは、畜産業だ。
畜産業では、生産性や効率性ばかりを追求する従来の工場型畜産システムから、アニマルウェルフェア(動物福祉)という、家畜も動物としての行動欲求を満たしながら飼育することがポイントになる。ところが、日本では今も工場型畜産システムが主流で、東京五輪の調達基準にも、アニマルウェルフェアに関する指標が不十分なのだ。
この問題について以前から、動物愛護活動を行う認定NPO法人アニマルライツセンター(東京都渋谷区)など約50の団体が、基準の改定を求めていた。それに強力な助っ人として、米国の自転車競技選手で、ロンドン五輪銀メダリストのドッチィ・バウシュさんをはじめ、平昌五輪金メダリストら計10人の選手たちが加勢。8月、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会や都に対し、大会で使われる畜産物がアニマルウェルフェアの基準を満たしていないと抗議し、改善要求の声明を出した。
問題視されたのは、採卵鶏と食用豚。日本の生産方法は、欧米、インド、南アフリカなどで次々に廃止された飼育法だ。アニマルウェルフェア型畜産システムの最低基準にすべく、次のような改善を求めている。
【鶏】小さいかごや、バタリーケージという狭い檻に閉じ込める「ケージ飼育」でなく、屋内外を自由に行き来できる放牧か、屋内の鶏舎を歩き回れる平飼いにする。