今回の騒動を取り上げたメディアの中には「往年のスターの凋落」的な文脈で事を煽りたかった人たちもいたかと思います。しかしそれは、単にジュリーがテレビという大衆メディアに姿を敢えて晒さなくなった『スタンスの変化』を、勝手に『凋落』だの『消えた』だのと履き違えていただけ。ジュリーの人気が落ちた事実など今の今までないのです。もちろんCDの売り上げは以前に比べれば少なくなっていますし、目立ったヒット曲も20年ほどありません。それでもジュリーのポジションというのは、たとえジュリーを「懐かしい」と思う人の中ですらも、いっさい変わっていない。そしてそのことにほとんどの人が無自覚でした。しかしながら、今回の騒動によって、世間は期せずしてそれに気づかされる運びとなったわけです。

 私たちは今、改めてジュリーへ想いを馳せ、ジュリーをリアルタイムで消費できる悦びを噛み締めている気がします。かつては日本中のお茶の間に充満していたはずのジュリー。だけど寝たふりしてる間に出て行っちゃったのはジュリーの方で、いつの間にか私たちもジュリーの不在に対して無自覚になっていました。

 取材に応じる現在のジュリーを映すテレビに向かって、多くの人が「お帰りジュリー!」と心の中で叫んだはず。騒動以降CDの売れ行きも上がっているそうですし、ならば紅白復帰のタイミングは今年しかないでしょう! 奇しくも「ジュリー!」と絶叫していた樹木希林さんも先日他界されました。たとえ往年のヒット曲じゃなくても、見た目が全然違っていても、『唄うジュリー』を画面に映すことに意味がある。少なくともNHKは「打診したが断られた」という既成事実だけでも作るべきです。

週刊朝日  2018年11月16日号

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ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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