どこまでが田中圭で、どこからが春田なのかわからない、それが「おっさんずラブ」の魅力にもつながったんじゃないかなと思います。

 圭くんのすごいところは、相手の役者の魅力も引き出せること。

 たとえば、第4話で、内田理央さん演じる幼馴染みのちずと春田の間に、ちょっと恋愛っぽい空気が生まれる場面があるんですけど、そのときの理央さんの表情がものすごくよかった。あれは、圭くんが実際に理央さんをドキッとさせたからこそ……男として春田を好きにさせたからこそ、生まれた表情なんじゃないかと思うんですよ。理央さんはもちろん、元々素晴らしいな役者さんなのですが、あの場面は彼女……そしてちずにとって決定的な転機になったように感じたんです。そういうところが、圭くんのすごさだと思います。

 彼はとてもシャイな人なんですが、相手にさらけ出してほしいから、自分のやわらかい部分をさらけ出す。そうやって生まれた人間関係で、好きあった人間同士が濃密な時間を共有することで、相手のいい部分が引き出される。

 そういう意味で、心からキャスト同士も本当に仲が良かったというか、単純に人間同士で好きあったから、あの芝居が生まれたんだと思います。

 圭くんは「愛の人」なんですよ。人と器用につきあえるタイプじゃないけれど、人に対してすごく愛がある。

 僕は、撮るときは役者の生の感情をそのまま撮りたいんですけど、映像に起こす段になると、ちょっと恥ずかしくなってしまうというか、照れ隠しに“笑い”や“外し”を入れる癖がある。それってなかなか他人にはわからないものだと思うんです。ところが、第4話のアガリを見せたあとで、圭くんに指摘されたんです。「瑠東ちゃんは恥ずかしがる癖があるよね。恥ずかしがらずに、照れずに作ったものも見せてほしいな」って。

 その言葉があったから、第7話は照れずにまっすぐに向き合おうと意識しました。必要ない場面は、一切やめた。それによって僕自身も変われたと思います。ほんと、人として惚れましたね(笑)。

 情報量の多い現代、仕草だけをなぞったような“嘘の芝居”はバレる、と僕は思っています。人の心をつかむのは、その役者の、本当の心が見えるものじゃないか、と。「おっさんずラブ」がみなさんにいいと言ってもらえたのは、圭くんをはじめとする役者の心が伝わったからではないかと思うんです。役を生きるというのはそういうことで、彼らの愛に嘘はない。彼らが見せてくれた愛は、そういったものを超えた人間的な愛だと思う。

 僕は本当に彼のことを愛してるし、好きだし……友人としても好きです。これからも、圭くんそのものの魅力があふれるような作品と役で、一緒にやる機会をなるべく多く持ちたいなと思っています。

■瑠東東一郎(るとう・とういちろう)
ドラマ演出家、映画監督。1979年生まれ。2016年の「おっさんずラブ」スペシャルドラマ(単発)版、および2018年の連続ドラマ版第1・4・7話の演出を担当した。

※週刊朝日オンライン限定 フルバージョン・インタビュー