圭くんの芝居にいちばん驚かされたのは、第7話(最終話)で、春田が牧にプロポーズする場面ですね。道路の反対側から「牧が好きだ!」って叫んだあと、「ちょっと待ってて!」って急いで道を渡る。

 あのロケ場所は、実際には地下道を渡らないと林遣都さんのいる歩道には行けないんですが、道を挟んでのシーンを撮り終わって、反対側に渡ってプロポーズのシーンを撮ろう、って移動していたら、圭くんが地下道の階段を上がってきた瞬間、もう芝居を始めてたんですよ。

 普通はもちろん、ドライ(カメラなしのリハーサル)があってテストがあって本番になるんですが、ビリビリくる芝居がいきなり始まったんです。何の合図も無しに。そこからはもう生演奏のセッションみたいな感じで、撮影が始まりました。

 圭くんはそのとき、「お前はいっつもさ、そうやって勝手に決めんなよ!!」って、叫んだ。あれは鮮烈でした。脚本だけを読んだら、テンションを落としてもいけるセリフなのに、僕が予想した1.5倍くらいの熱量で叫んだんです。

 脚本にはもともと、春田に抱きつかれた牧が照れて「腕が痛い」とか「汗とか(ついた)」って一度体を離そうとするセリフがあったんですが、あのテンションで抱きつかれたら、牧は余計なセリフは言えないな、と思いました。

 後に、どうしてあの熱量になったのかと圭くんに尋ねたら「勝手に部長が乗り移った」って。吉田鋼太郎さん演じる黒澤部長が春田へ向ける熱い愛のセリフのような、高い熱量が乗り移った、ということなのでしょう。思えば、ずっと受け身だった春田が、唯一自分でアクションを起こすのがあのシーンなんですよね。

 圭くんは本当に芝居がうまいし、テクニックもある。でも、田中圭そのものが芝居に出ていること、作っていないことが、いちばんの魅力です。

 芝居って、役者自身の作っていない魅力が出ると思うんですね。生き方とか、無茶苦茶なことするところとか、熱く生きていることとか、かわいげがあったりとか……圭くん自身に魅力があふれていて、それが、芝居の枠を超えて内面から湧き出てくる。だから撮っていても、彼の芝居にヒリヒリするんです。

次のページ
田中圭に言われて変わったこと