手術の説明をする種市さん
手術の説明をする種市さん
手術前と手術後のX線写真(吉井さんとは別の人)
手術前と手術後のX線写真(吉井さんとは別の人)

 姿勢の悪さは自分では意外と気づきにくいもの。年を重ねると筋力の衰えから前かがみになりがちで、いつの間にか腰が曲がっていたという人も少なくない。解決策の一つとして、手術で矯正する方法を紹介する。

【写真】脊椎固定術の手術前と手術後はこちら

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 超高齢社会を迎えて、近年、注目が高まっているのが、“高齢者の腰曲がりを治す手術”だ。

「脊椎固定術(または脊椎インストゥルメント手術)」といい、変形して前に曲がった脊柱を、生体に入れても問題がなく、かつ強度もあるチタンなどの金属で補強や矯正し、背骨のS字カーブを取り戻す。大手術のようで心配になる人も多いかもしれないが、そのメリットは大きい。

 今から10年ほど前、この手術を受けたのが、関東地方在住の主婦、吉井ケイ子さん(仮名・69歳)だ。

 姿勢が悪くなったきっかけは、50代後半で患った二つの病気だった。脊椎がずれる「脊椎すべり症」と、脊柱管が細くなって神経を圧迫する「腰部脊柱管狭窄症」のため、腰が痛くて前かがみの姿勢をとるようになった。ブロック注射なども試したが効果は薄く、歩くこともままならないほど状況は深刻だった。

 加えて、ある医師の言葉に衝撃を受けたという。

「『このまま放置したら、70歳ぐらいで腰が直角に曲がってしまう』と言われて。痛みもつらかったんですが、それ以上に腰が曲がった状態になるのは困る、と。夫や友人から『あなたの腰が丸まった姿は見たくない』と言われたこともあり、手術を決断しました」(吉井さん)

 手術は獨協医科大学病院(栃木県壬生町)整形外科教授の種市洋さんのもとで受けた。あれから10年。今は自営業の夫の仕事を手伝ったり、友人と旅行や食事を楽しんだりと、充実した毎日を送る。

「手術をしていなかったら、今ごろ腰が曲がって好きなこともできなくなっていたかもしれません。今でも姿勢がよく、前と変わらずさまざまなことができているのがうれしいです」(同)

 高齢になって姿勢が悪くなるのは、加齢で背骨にある椎間板が変形したり、骨がもろくなる骨粗しょう症によって椎体が圧迫骨折しつぶれたりするためだ。

 また、本来なら背筋や腹筋が脊柱を支えているが、その筋力も加齢によって低下するため、背中の丸まりが一気に進む。個人差はあるが、種市さんによると60歳を過ぎたころから脊柱の加齢変形が始まるという。

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