「見た目に影響を与えるだけでなく、実は、腰が丸まって姿勢が悪くなることで、生活や健康の面でさまざまな支障が出てくることがわかっています」

 と種市さん。例えば歩行では、腰が前に曲がったままで歩くと疲れやすいため、長い距離の歩行は難しくなる。また、前かがみになると、不安定な姿勢のためにバランスを崩しやすく、転倒などの原因に。高齢者がシルバーカーやつえを使っているのは、疲れるのを防いだり、バランスを取ったりするためだ。

 ほかにも、体を起こして前を向くことができないので、歩行者や障害物に気づかずにぶつかる心配もある。かといって無理に首だけを上げれば、頸椎(けいつい)に負荷がかかり、首痛を引き起こすこともある。背中が曲がった人がやる“腰に手を当てて骨盤を立てた姿勢”も実は健康を損なう一因。一時的にはラクになるが、股関節に負荷がかかり、変形性股関節症や変形性膝(しつ)関節症のリスクが高まる。

「前かがみになるとおなかが圧迫されるので、横隔膜が上に持ち上がって呼吸が苦しくなったり、胸やけなどを起こす逆流性食道炎になったりします。症状が強い方では嘔吐することもあります。胃腸の調子が悪くて食事がとれなくなれば、骨がもろくなったり、筋力が低下したりする。フレイルという虚弱状態に陥ります」(種市さん)

 もちろん、見た目の問題も深刻で、腰が曲がった外見を気にして外出を控えるようになる人もいるそうだ。

 こうした問題を解決する方法の一つが、先に紹介した姿勢を矯正する脊椎固定術だ。10年以上前から行われていた手術で、健康保険が使える。数年ほど前からは、その人が持っている固有の脊椎のS字カーブを手術前に正確に計測し、その形を手術で再現できるようになったため、急速に普及が進んだという。

 種市さんの勤める施設では12年前から始め、現在は年間50件ほど実施している。患者の年齢は60~80代だ。手術後は若いころのようにピンとした姿勢が取り戻せ、おなかの圧迫もなくなるので胃腸も健康になる。何より「精神的な効果も大きい」と種市さん。

「手術後の検査などで来られる患者さんは、新しい洋服を買ったり、化粧をしたりしていますね」

 ただし、この手術では課題もある。その一つが“腰を固定してしまうため、以前のような前かがみの動作ができなくなること”だ。

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