ポール・サイモンがセルフ・カヴァーでヒット曲を選ばなかった理由 (2/3) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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ポール・サイモンがセルフ・カヴァーでヒット曲を選ばなかった理由

連載「知新音故」

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小倉エージ週刊朝日#小倉エージ
新作アルバムを出したポール・サイモン。今年2月にライヴ活動停止を表明した

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今年77歳を迎えたポール・サイモン。「サイモン&ガーファンクル」として人気を集め、ソロでは多様な音楽に取り組む

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ポール・サイモンの14枚目のオリジナル・スタジオ・アルバム『イン・ザ・ブルー・ライト』(ソニー・ミュージック SICP―31188)

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「キャント・ラン・バット」は『リズム・オブ・ザ・セインツ』(90年)から。今回は、フェアウェル・ツアーにも同行して話題を呼んだニューヨークの管弦楽6重奏グループ、yMusicをバックにした。オリジナルのアレンジを踏襲したリズミカルかつスリリングな演奏に興奮を覚える。原発問題などにも言及している。

 さらにyMusicの起用が光っているのが「犬をつれたルネとジョルジェット」。『ハーツ・アンド・ボーンズ』(83年)の収録曲で、オリジナルでは、ワルツ・テンポの端麗なアレンジをバックにポールが甘い歌声を聴かせていた。本作ではyMusicの幻想的かつ優雅なアンサンブルをバックにした、ポールの真摯な歌声が印象深い。

 この曲は、画家のルネ・マグリットと妻のジョルジェットのスナップ写真に添えられていたキャプションをヒントに書いた。名声や評価を得ながらつつましやかだったとされるマグリット夫妻の生活の断片を浮き彫りしながら、なぜかグリニッチ・ヴィレッジの一角を歩いている光景や、ポールがかつて親しんだペンギンズ、ムーングロウズ、オリオールズ、ファイヴ・サテンズといったドゥワップ・グループの名が織り込まれている。マグリットの画風そのままにシュールな歌詞の展開が面白い。

「豚と羊と狼と」は、シニカルな歌詞。ジョージ・オーウェルの「アニマル・ファーム」に触発されたのかどうか、権力者などを動物にたとえ、世間の偏見や不正義を揶揄している。どうやらアメリカの司法制度、死刑制度に疑問をなげかけているようだ。原曲は南部風味のアレンジだったが、本作ではウィントン・マルサリスを中心に、ニューオリンズのセカンド・ラインを採り入れたブラス・アレンジをバックにした。それに呼応し、ポールがシャウトを聴かせる。

 トランペット奏者として知られるジャズ・ミュージシャンのウィントンが、絶妙の演奏を披露しているのが「想いこがれて」。『ワン・トリック・ポニー』(80年)に収録されたバラード・ナンバーで、本作の表題は、この曲の冒頭の歌詞に由来する。原曲ではソウル・ジャズ風味の演奏だったが、本作ではウィントンのミュート・トランペットとサリヴァン・フォートナーの端正なピアノで、ジャズ・テイスト濃い仕上がりになった。


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