ポール・サイモンがセルフ・カヴァーでヒット曲を選ばなかった理由 (3/3) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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ポール・サイモンがセルフ・カヴァーでヒット曲を選ばなかった理由

連載「知新音故」

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小倉エージ週刊朝日#小倉エージ
新作アルバムを出したポール・サイモン。今年2月にライヴ活動停止を表明した

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今年77歳を迎えたポール・サイモン。「サイモン&ガーファンクル」として人気を集め、ソロでは多様な音楽に取り組む

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ポール・サイモンの14枚目のオリジナル・スタジオ・アルバム『イン・ザ・ブルー・ライト』(ソニー・ミュージック SICP―31188)

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 ラヴ・ソングでは「愛しのロレイン」が味わい深い。ヴィンセント・ンギニも参加している……ということは彼の存命中に録音したものらしい。主人公の男性が女性と出会い、結婚し、別れ、よりを戻し、死別するまでを描いた曲だ。オリジナルではムビラ(親指ピアノ)をフィーチャーしたポリリズム的な展開だったが、本作では洗練されたジャジーな演奏をバックに、ポールが淡々と歌う。“木の葉が四月の雨に洗い流され 草原に輝く月が 愛しのロレインを連れ去ってしまった”というくだりには泣ける!

「ティーチャー」と「ある人の人生」は“救済”を求める人の歌だ。前者はモーゼの十戒を思わせる。後者では、気楽な人生を送る人もいるが、ほとんどの人は希望の星に手が届かず、つまずきながら生きていると歌われる。

 アルバムを締めくくるのは「クエスチョンズ・フォー・ジ・エンジェルズ」。現代社会にあって自身の存在を求める“巡礼者”の“天使”への問いかけを歌い、アメリカの現実を浮き彫りにしている。

 ポール・サイモンは「サウンド・オブ・サイレンス」「明日にかける橋」など、自分の体験をもとにした歌、社会と自身のかかわりを問いかけた歌を数多く生んできた。本作では、『ブックエンド』(68年)収録の同名組曲のように、これまで見落とされがちだった、社会の底辺にあって世の中から忘れ去られた人々の存在、現在のアメリカが抱える問題について描いた曲を取り上げた。ラヴ・ソングにおける人間模様の観察や描写もより深まっている。どの曲も名演と呼ぶにふさわしく、心に染み入る名曲の存在を改めて問う傑作になった。(音楽評論家・小倉エージ)


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小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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