個人の権利や主張が最大限尊重される現代において、いかに『健全な第三者』として共存できるかどうかが『TPO力』だとするならば、あのアフラックのCMにおける翔くんはまさに『TPO力』の鑑。あれほどまでに粛々とそして冷静に、世の中を俯瞰で見ているアイドルが今までいたでしょうか? もしかすると、あの粛々さこそが彼のエゴそのものなのかもとも思えてきますが、だとしても到底真似できるものではない。誰もが奥に抱えている『闇』をちらつかせたり、それで物事を片付けたりしようとするところが、彼にはいっさいありません。嵐がいつまでも無味無臭でクラシカルな趣を保っているのは、そんな櫻井翔の存在故なのかも。その分、他の誰よりも闇が深そうなのもまた彼の魅力です。以前、テレビ局の控室でタバコを吸う翔くんを見た時、とてつもない安堵感に襲われたことを鮮明に覚えています。

 こうなったらいっそAmazonのCMも、そして『ハズキルーペ』も、すべて櫻井翔の手にかかってしまえばいいと思う今日この頃です。そうでもしないと彼の本当の凄さと闇の深さに誰も気づけないまま、「あのアフラックのCM、何かわざとらしいよね」とか「櫻井キャスターって、どう見てもコントでしょ」で終わってしまう可能性があります。それはいけない。もったいない。正直なところ私も今までそうでした。

 それでも翔くんのTPO力の高さを受け止めきれないという人は、是非彼のラップを聴いてみてください。

※週刊朝日2018年10月19日号

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ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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