「本当に効くの?」「値段が高そう」。漢方に関して、そう思っている日本人は多い。疾患部分を集中的に治療する西洋医学とは違い、漢方は全身のバランスを調整する医学だ。加齢に伴い、身体の節々が痛んでくる高齢者にとって、漢方医学が見直されてきているという。
千葉県在住の岡本裕一さん(67)は、2年前に胃がんと診断された。早期だったため、手術で取りきることができたものの、手術から半年が過ぎても体力が回復しない。
経過観察で受診するたび主治医に「疲れる」「体調が悪い」などと訴えたが、「がんが再発している兆候もないし、治療のしようがありません」
と言われるばかり。高価なサプリメントも10種類近く試してみたものの変化はなく、一日中ふとんやソファで横になって過ごす日が続いた。
寝たきり予備軍になりつつあった岡本さんを救ったのが、かかりつけ医が処方してくれた「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」という漢方薬だった。補中益気湯は、数ある漢方薬の中でも体力や気力を増強させる代表的な処方だ。
飲み始めて1週間経ったころからだるさがとれ、動けるようになった。岡本さんは笑顔でこう話す。
「当初は『漢方薬なんて効くわけがない』と思っていましたが、体調は目に見えてよくなりました。体力に自信がついてきたので、水泳や登山を再開しようと考えています」
日本人の平均寿命は男女ともに延び続け、人生100年も夢ではない長寿時代に突入した。多くの人が望むのは、ただ単に寿命を延ばすのではなく「元気に長生き」することだろう。厚生労働省の調査によると、介護が必要になる主な原因のトップは認知症で、脳血管疾患、高齢による衰弱、骨折・転倒が続く。いずれも「老化」が深くかかわっているため、現代の医学では治療できない場合も多い。
老化を食い止めたり、老化によって生じる病気や不具合を改善したりする有力な手立てとして「漢方」が注目を集めている。北里大学東洋医学総合研究所所長の小田口浩医師は言う。