ときおり大きな瀬を乗り越え、びしょ濡れになり、また沈(チン)しそうになりながら、スタートして約2時間、青梅市市民球技場の河川敷に着岸した。
もう少し下りたい気もあったが、ゴールの河口はまだ約55キロ先である。
多摩川が少しずつ大河に成長しつつあるのを感じながら、この日は川を眺めるキャンプ場でテント泊した。
多摩川には八つの堰堤がある。そのため一気に川を下ることは不可能だ。堰で川の流れがせき止められることで、浅瀬が増え、底を擦り、進むことができない箇所も多い。また、流れがなく風に押し戻され、必死に漕がなければ進まない箇所もある。「この先は下れるところのみを行くことにしましょう」と話し、再びカヤックに乗り込んだ。
やがて多摩川の堰で最大の二ケ領上河原堰が見えてくる。堰堤は危険なので、早々に右岸に上がりポーテージ(通行不可能な箇所を回避)する。堰を越え、再び下流を目指し、武蔵小杉のビル群を眺めつつ下る。と突然、スーツ姿の紳士が岸から声を掛けてきた。
「私もカヌーをやっていたんです」という紳士によると、多摩川は30年ほど前より水がきれいになったそうだ。
河口に近づくと、川幅が400メートルを超えるほどの広さになった。遠くに羽田空港に着陸する飛行機が見える。今日は波も穏やかだ。上陸しやすい2キロポスト付近にカヤックを止め、土手の上まで持ち上げ、大河に成長した多摩川を眺めた。
最初の一滴を見たのが、遠い遠い昔のような気がした。(取材・文/本誌・鮎川哲也)
※週刊朝日 2018年10月5日号