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 吉田の成長は野球の技術だけではない。

 昨秋の新チーム発足時、吉田が選手をまとめる「チームキャプテン」に指名された。中泉にはある思惑があった。吉田は思い通りにいかないプレーが出ると、試合中に悪態をつくことがあった。「主力だが、抑え込むのが最も難しかった」と中泉。我の強さを抑え、チームプレーへの意識を根づかせたかった。

 その思いが伝わったのか、吉田はキャプテンとして仲間を励まし、時には嫌われ役も買って出た。悪態も次第に減っていった。吉田は「周りを見ることができるようになり、相手への観察眼も鍛えられた」と、メンタルを磨き上げただけではなく、投球の幅までも広げられた、と実感した。

「東北で1番厳しい練習」「今よりも圧倒」――。グラウンドのベンチ内にあるホワイトボードには、吉田が自慢の達筆で書いた文字が並ぶ。月初めになると吉田がその月の目標を書くのが、慣習となっていた。
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 甲子園の決勝はこの夏唯一の黒星を喫し、マウンドも初めて譲った。抽選会の前から「初戦は大阪桐蔭とやりたい」と強気に話していた吉田。頂点をかけ、いざ対戦するも、「完全に力負けだった」と絞り出すように口にした。「この悔しさは、これからの野球人生で晴らしたい」。いずれはプロ野球の舞台で、根尾昂や藤原恭大ら大阪桐蔭のライバルたちを抑えることが目標だ。

 甲子園入り後、宿舎のホワイトボードには、いつものように吉田の達筆な文字があった。
「大会期間で成長する」

 吉田はこの夏、どれだけ大きくなったのだろう。そして、これからどこまで進化を遂げるのだろう。その伸びしろに誰もが期待している。(朝日新聞記者 神野勇人)

(週刊朝日増刊「金足農 旋風の記憶」から一部抜粋)

※週刊朝日オンライン限定記事