芥川賞作家が黒衣として歌舞伎界の裏側を見た 吉田修一の「国宝」

読書

2018/09/16 07:00

吉田:鴈治郎さんの襲名披露があった、旧金毘羅大芝居(金丸座、現存する日本最古の芝居小屋、香川県琴平町)にも行きましたね。夜、飲みに出る鴈治郎さんに、奥さんが「襲名ですからね」とやんわり釘を刺す様子が印象に残っています。こうやっていつも心配されているから役者は役者でいられるんだなあと(笑)。

中村:連載が終わっても劇場に来て、黒衣になってるもんね。コスプレが趣味でもないんだろうに(笑)。こんなに芝居が好きな弟子がいればいいのに、と思いますよ。

吉田:ただ連載が終わったいま、黒衣になっても、ちょっと遠慮してしまうんです。書いているときはがんがんいけたんですが。

中村:そうだろうね。連載中は、そんな恐れを超えて取材していたから書けたんでしょう。

吉田:黒衣を続けるうちに歌舞伎がますます好きになり、恐れも何もわからなくなったのかもしれません。ぼくはプロット(筋書き)を定めずに書くタイプですが、『国宝』の場合、大枠のストーリーが浮かんだのは、黒衣となっているか、歌舞伎を見ているときだけでした。普段はごはんを食べていたり車を運転したりするときに、ふと浮かぶんですが。

中村:どれぐらい連載は続いたんだっけ。

吉田:1年5カ月ですね。こんなに楽しかったことはなくて、終わるのがいやでした。『国宝』は「……ございます」という文体でしたから、ほかの作品を書こうとしても、ほとんどむりでした。

中村:そこまで打ち込んで見えてくる歌舞伎の醍醐味って、何だい。

吉田:作中の終盤、主人公喜久雄について「その役者の芝居見るとな、正月迎えたような気分になんねん。気持ちがキリッとしてな。これからなんかええこと起こりそうな」と盟友が語る場面があります。歌舞伎のもつ、格式があって晴れやかな雰囲気にひかれます。

中村:たしかに。ぱっと幕が開いて、わーと歓声があがる、うきうきするような。吉田くんには一生、歌舞伎が好きでいてほしいな。こっちもいろんな意見を聞かせてもらい、発見があるよ。

吉田:できれば、いつか時間をきちんと取って、歌舞伎の脚本にも、がっつり挑戦してみたいです。

中村:役者も、まさにそれを期待しているんだよ。

(構成/朝日新聞文化くらし報道部・木元健二)

週刊朝日  2018年9月21日号

国宝 (上) 青春篇

吉田修一

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国宝 (上) 青春篇
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