「開腹手術だと、がんそのものは小さくても腹部を大きく切る必要があります。なぜなら肝臓は多くの血管が入り組んでいるほか、肋骨に囲まれているため、手術中の視野をよくしなければならないからです。がんがある場所によっては腹部だけではなく、胸部を切開しなければならないことも。腹腔鏡手術はその必要がないので、患者さんの負担がかなり軽くなります」

 80歳前後の高齢のがん患者も増えている。術後の痛みが大きいとなかなかリハビリを開始できず、筋力も衰えていく。腹腔鏡手術は開腹手術に比べて術後の痛みが軽く、早期にリハビリを開始できる。実際に在院日数が短くなるというデータもある。

「最近は、ひとり暮らしの高齢患者さんが増えているので、痛みがあると退院後の生活に不安を感じるものです。そうした意味でも回復が早いことは、メリットが大きいのです」(後藤田医師)

 拡大視効果によって小さな血管が見やすくなるため、開腹手術に比べて出血量が少なくなる傾向もある。

 肝がんになった人は、もともと肝臓の病気をもっており、手術ができたとしても、1年で2割は再発する。このため、手術をくり返すこともある。

「腹腔鏡手術は開腹手術のように手術中に臓器が空気にさらされず、術後の癒着が明らかに少なくなります。このため、再発して2回目の手術が必要になったとしても、手術しやすいのです」(同)

 肝がんは「原発性」のほかに「転移性」といって、ほかの臓器のがん、特に大腸がんが肝臓に転移したものもある。この場合も大腸がんの手術を腹腔鏡で受けていると、転移性肝がんの手術がしやすいという。

■施設ごとに異なる腹腔鏡の選択基準

 腹腔鏡手術には難点もある。大きな血管から出血した場合に動作に制限があって、止血が難しい点だ。止血などの操作も器具を使っておこなわなければならず、技術が必要になる。このため、腹腔鏡手術をするかどうかは、施設の経験や医師の技術に合わせて選択される。受診した病院で「腹腔鏡手術はできない」と言われたとしても、ほかの施設でセカンドオピニオンを聞くと、できる可能性はある。

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内視鏡外科学会が定める技術認定