柄本さんの映画にまつわるエピソードを聞いていると、どうにも“仕事”という感じがしない。とにかく映画が好きでたまらない。そんな映画狂の性が、日々の彼を突き動かしているとしか思えないのだ。

「映画の何がいいって、僕は、“待ってくれること”だと思うんですよ。今回も、台本が一回大幅に書き換えられているし、1ページ半ぐらい、割と深いやりとりを演じたシーンが、すべてカットされたこともありました(笑)。でも、そういうのもひっくるめて、監督が、奇跡が起きる瞬間を待ってくれていて。寄り道の時間を作れたことが、僕ら3人にとってはよかった。僕は今回、“僕”って役を演じながら、ずっと、“僕って何なんだろう”ってことを探っていた気がします。贅沢な時間でした」

 効率ばかりが優先されがちな現代、この映画の中には、意味のある道草や寄り道や遠回りが映っている。ゆっくり時間をかけなければ生まれなかった濃密な空気が。

(取材・文/菊地陽子)

週刊朝日  2018年9月7日号