お年玉ならぬお盆玉も定着しつつある (c)朝日新聞社
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住宅購入資金の親の贈与額分布(週刊朝日 2018年8月17-24日合併号より)
住宅購入資金の親の贈与額分布(週刊朝日 2018年8月17-24日合併号より)

 神奈川県在住の浜口佳代子さん(仮名・63歳)。定年後、再雇用で働く1歳年上の夫と二人暮らしだ。老後資金は決して潤沢にあるわけではないが、夫が仕事を完全にリタイアしたら、2人でゆっくりと旅行するのが長年の楽しみだった。夫婦2人、ほそぼそとやりくりしていけば、老後資金も何とかなるだろう。そう考えていたが、5年前、結婚した娘が妊娠した。佳代子さんにとって初孫で、うれしくて仕方がない。孫の誕生を待ち望んでいたある日、娘からこう切り出された。

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「そろそろマンションを買いたいと話してるんだけれど……」

 子どもができたのをきっかけに、ローンを組んで家を買おうという話になったらしい。狙っているマンションは、佳代子さんらの住む家の近くで、孫が生まれたら、しょっちゅう会いに行ける距離だ。深く考えず、こう言った。

「いいじゃないの。頭金、援助するわよ」

 そのマンションは、新築3LDKで3千万円ほど。だが、結婚を機に会社をやめた娘は現在専業主婦で、娘婿の年収は、400万円に届かない。その年収で、ローンとして借りられる額は一般的に2300万円前後。つまり、頭金として700万円ほどが必要になる計算だ。

 娘夫婦が頭金として用意できる額は、せいぜい100万円。そこで、残り600万円の一部を佳代子さんらに援助してもらえないかという。娘婿側の親は、半額の300万円を出すと話しているらしい。

 5年前の娘の結婚費用に、300万円が飛んでいったことが、ふと頭をよぎる。だが、生まれてくる孫のことを考えると、断るという選択はなかった。

「そこまで話ができているなら、婿側の親御さんと折半で頭金を出そう」

 佳代子さんは夫と話し合い、頭金として300万円を援助。さらに新居への引っ越し費用や家財道具購入の援助として、50万円を渡した。

 それから約5年。娘は、週末のたびに夫と子を連れて実家に帰っては、佳代子さんの作った食事を食べてゴロゴロ。食材の買い出しを頼めば、当たり前のように佳代子さんの財布を持って買い物に行く。さらに自宅に戻るときには、“お土産”として冷蔵庫の中身や買い置きの日用品を持って帰るのがお決まりだ。

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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