しかし、最初から、円周の長さは直径×円周率(π)だと言われても、実感がわかないでしょう。突然出てきたπに、「πってなんだ」とか「日常では使わない」という文句が出てくるだけだと思います。そこで、3.14や3というリアルな数値をつかうと、実際の長さが大体わかるので、「コップをリボンで巻くには何センチ以上必要かな」というように、なんとなく身近になるのです。大人たちは円周率が3にされた時期の人たちを総じて「ゆとり世代」なんて呼んでいますが、大人たちが決めたことであるうえ、3.14が正しいわけでもないのに、そんな揶揄(やゆ)する呼び方をされて理不尽だなと思います。

 よく理系文章は固いだとかロジカルとか言われますが、それはやはり、数学が基本的に「論理的な考え方」を鍛えるものだからでしょう。それをふまえて最初に戻りますと、小学生という小さいうちに、3×2と2×3は異なるものであり、3×2は3個の固まりが2つあるという感覚を染みつかせるのは、大切なことのように思えます。

 私は、算数は「論理的な考え方を身につけるために式を大切にしている」、数学は「本気で答えの出し方を追求していくために前提は身についているものとして式を軽視している」のではないかと思っています。木も、大きな幹がなければ、そこから立派な枝は生えません。つまり、求められている能力が違うと思うのです。

 数学は、解くまでの道のりと答えを重視しているわけですから、式の順序なんてどうでもいいのです。算数はどことなく国語に似ていて、一つ分×いくつ分かを問題文から読み取って書くことが大切なのです。算数の問題では、「3人がリンゴを2個ずつ持っていたら全部で何個になるでしょうか」という問題は、2つの固まりが3つ分あるわけですから、足し算で書くと(2+2+2)になります。つまり、2×3です。「2人がそれぞれ3個のリンゴを持っていたら全部で何個になるでしょうか」という問題は、3つの固まりが2つ分あるので(3+3)、つまり3×2になるのです。

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掛け算の順番は世界共通?