初回限定盤に収録されたレコーディングのドキュメント映像から、制作の過程を知ることができる。レコーディングの前に大まかな曲構成など楽曲の方向性を決めるプリ・プロダクションの作業で、根本と佐橋が交わす会話のやり取りが興味深い。根本が存在を忘れていた古いデモ・テープの中から佐橋が発掘した曲も収録されているという。

 レコーディングでは、要所で微に入り細をうがつ佐橋の要望に、メンバーの誰もがあうんの呼吸で応える。その知識や的確に表現できる技量があってこそのもの。

 ドラムスの寺田はスネア・ドラムを曲ごとに替え、柿沼のベース、根本のギター、アンプなどはヴィンテージ機材を使用するなど、佐橋はかつての“音”を再現すべく、楽器の音質にもこだわった。その意欲的な取り組み、メンバーの喜々とした表情に引き込まれ、興奮を覚える。サポートのキーボード奏者の添田啓二、録音の飯尾芳史の貢献も見逃せない。

 本作の幕開けは「海月~UMIZUKI~」。マルチ・ダビングによる生ギターのストロークが心地よい70~80年代のAORテイストのポップ・ロックだ。別れた恋人への思いを歌った曲で、根本のせつなげな歌唱は、悔恨と無念の心情を巧みに描き出す。

 続く「You're My Love」は“君”が住んでいた街を訪れ、過ごした思い出を振り返った追憶のラヴ・ソング。ギターやリズム・パターンはJ・D・サウザーの「ユア・オンリー・ロンリー」的趣だ。ドキュメント映像で根本、佐橋がギターを交換しながらダビング録音をする光景を見ると、フィル・スペクターや大瀧詠一へのオマージュがくみ取れる。

「恋するTシャツ」はスインギーなシャッフル・ナンバー。プリ・プロ段階の映像では、会話の中で山下達郎やマンハッタン・トランスファーの名前が登場する。“モノ”への愛着を込めたラヴ・ソングとして、ユーモアを交えた歌詞を手がけたのは森雪之丞だ。

 ビートルズの王道的なロック・バラードを継承した「路傍の歌」。ベースのフレーズにはポール的なエッセンスも。歩んできた道のりを振り返り、これからの人生をあるがままに生きていきたいと歌う。切々とした歌唱とリード・ギターのロング・トーンが印象深い。本作でのハイライト曲だ。

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