いまや人々の生活とは切っても切り離せないスマートフォン。「スマホ依存」という言葉も定着しているが、それは子どもだけに限らない。小さな子を持つ親世代から定年を過ぎた年配者まで、大きな影響を与えていることがわかった。
自己抑制を担う脳の前頭葉が完成するのは、20歳から30歳と言われる。
「アルコールやたばこと同じです。依存性のあるものに対し、脳の機能が未発達な子どもたちが、自分の意思でコントロールするのは難しい」
と話すのは仙台市と東北大学の加齢医学研究所の研究所長で「脳トレ」でも有名な同大教授の川島隆太氏だ。
札幌市在住の良子さん(仮名)が娘にスマホを持たせたのは小学6年の3学期。クラスの半数がスマホを持っていたが、Wi-Fiでネットがつながるリビングでしか使えないようにしていた。
だが、飲食店や百貨店や娯楽施設など、大抵の場所はWi-Fiがあり、ネットに接続できる。
「スポットを見つけてはやりたがります。なので、親が、ネットを使える時間を設定できるアプリをスマホに入れて管理しています」(良子さん)
川島教授らは中学・高校に出向き、こう訴える。
「勉強と食事、睡眠中はスマホのスイッチを切ること。これを約束しよう」
その川島教授だが、別の危惧を覚えている。
「スマホ依存から抜け出せないのは、むしろ大人のほうですよ」
2013年、川島教授らの研究チームは、仙台市内の幼稚園で、「家庭で親子だけで遊ぼう」というプロジェクトを開いた。市内でも教育熱心といわれる地域の親たちに向かって、川島教授らがこう言った。
「(普段から)10分、子どもと向き合ってみてください」
だが、大半の親は真顔でこう返した。
「忙しくてできない」
予想もしなかった回答に衝撃を受けた川島教授らは、こう投げかけた。
「その忙しい中で、テレビやスマホをどれだけ見てますか」
川島教授が考案した「10分間遊び」を取り入れ、プロジェクトは終了。その1カ月後、参加者の様子が報告された。子どもの問題行動が目に見えて少なくなり、親のストレスは激減したという。
「たった10分間、親と子が向き合う。それだけのことで、親という『緊急避難基地』を得た子どもの精神状態は安定する。それが証明されたのです」(川島教授)