年金の不正受給。子供に万引きさせる親。映画に登場するのは、一般的に見れば“ダメな大人”ばかり。

「あるとき、子供に万引きさせた親が捕まったニュースを見たんだけど、そこは親子で釣りが好きで、釣り竿だけ換金せずにいたら足がついたんだって。やってることはもちろん悪いけれど、いい話だなと思った(笑)。今は、犯罪がニュースになったら、断罪されて終わり。人の不幸というのが、社会のせいじゃなく、自己責任で切り捨てられて、誰もその先のことを想像しなくなっている。でも、そうせざるを得ない状況があったんじゃないかと僕は思うんです」

 凱旋会見で、「受賞理由を自身で分析すると?」と訊かれたとき、審査委員長のケイト・ブランシェットさんが、「安藤サクラさんの泣きの芝居が素晴らしかった。これから私たち俳優が泣くシーンがあったら、彼女の真似をしたと思って」と言ったことを挙げ、「芝居で“虜”にしたのだと思います」と続けた。家族の未来を、涙の意味を、想像したくなる映画である。(取材・文/菊地陽子)

週刊朝日 2018年6月15日号