是枝裕和(これえだ・ひろかず)/1962年生まれ。東京都出身。早稲田大学卒業後、テレビマンユニオンに参加。2014年に独立、制作者集団「分福」を立ち上げる。映画監督デビューは95年、「幻の光」。自ら書き下ろした小説『万引き家族』が、宝島社から発売中(撮影/写真部・小原雄輝)
是枝裕和(これえだ・ひろかず)/1962年生まれ。東京都出身。早稲田大学卒業後、テレビマンユニオンに参加。2014年に独立、制作者集団「分福」を立ち上げる。映画監督デビューは95年、「幻の光」。自ら書き下ろした小説『万引き家族』が、宝島社から発売中(撮影/写真部・小原雄輝)

 語りたくなる映画である。

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 カンヌ国際映画祭でパルムドールを獲る前に行われたインタビューで、是枝裕和監督に様々な質問をぶつけた。俳優たちの芝居を絶賛すると、楽しげに裏話を語ってくれた監督が、映画のテーマに関しての質問には、途端に口が重くなった。曰く、「全部、作品の中に込めちゃったから、本当はあまり語りたくない」らしい。

「テーマ性云々を、監督である僕が積極的にしゃべったほうがいい作品もある。でも、『万引き家族』は、僕がしゃべらなくても、観る側がいろんなところを拾ってくれる作品になったと思うので。撮影と美術と役者のことなら、何でも話します(笑)」

 映画の前半30分は、特に大きな出来事もなく、淡々と、家族の日常が綴られていく。樹木希林さんは、自ら入れ歯を外すことを提案し、お汁粉のをしゃぶるなど、年寄り特有の生々しさ、気持ち悪さを表現した。リリー・フランキーさんに対しても、「演出なんて、一切していない」という。「ディテールのリアリティーがないと、人はすぐストーリーを追いたくなる。今回の場合、前半は役者の芝居にすべてがかかっていた」

 安藤サクラさんへのオファーは、他の俳優に比べて遅かった。

「最初に話をしたのが、ちょうど彼女が妊娠していたときだったので、『産んでみないと、自分がどう変わるかわからない』と言われました。でもたまたま家が近所で、彼女が臨月のときにバッタリ会って、『監督~』なんて明るく声をかけてくれた。その印象が鮮烈で、彼女を想定して台本を書いてしまったんです(笑)。賭けでした。考えてみれば僕の場合、役者とは、役じゃないときに会ったことが、意外と大きく影響する。“普段どんな感じなんだろう”って想像することで書きたくなるんです」

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