“北側クリステル”に異変?今後の米朝会談を予想(※写真はイメージ)
“北側クリステル”に異変?今後の米朝会談を予想(※写真はイメージ)

「われわれの平和的な努力と善意に、無礼な挑発で応えた」

 北朝鮮は5月16日、米韓両軍が11日に始めた定例の共同訓練を理由に挙げ、6月12日に控えた米朝首脳会談について「改めて考慮せざるを得ない」と中止の可能性を示唆した。

 史上初の米朝首脳会談をめぐる動きが慌ただしくなる中、ある人物に注目が集まっている。“北側クリステル”の異名を取る北朝鮮の看板女性アナウンサー、李春姫(リチュンヒ)氏。

 李氏は、金正日総書記の死去やミサイル発射、核実験など、北朝鮮にとっての重要ニュースを担当するベテランアナウンサー。気迫とすごみのある独特な話し方で、他国からすれば北朝鮮を体現する存在でもある。

「どんな場合でも、放送員が言葉で気迫を失ってはいけない」「言葉の気迫は、我が放送話術の基本属性の一つである。それは、我が放送の使命と役割から必然的に流れ出てくる革命的本質と関連する」──。

 1988年に北朝鮮で出版されたアナウンス教本『放送員話術』では、アナウンサーの重要項目として「気迫」について長々と説く。

 北朝鮮情報サイト「デイリーNKジャパン」編集長で、北朝鮮事情に詳しい高英起さんは、次のように説明する。

「気迫は、北朝鮮のアナウンサーに不可欠な技術の一つです。最近の北朝鮮では、若くてモダンな女性アナウンサーも増えていますが、李さんは不動の地位を築いています。以前は女優の勉強をしていたこともあり、あの話し方は“演技”の領域でもあるのでしょう」

 李氏は普段はしっかりとセットされた髪形に、はりつけたような笑顔を終始保つのがお決まり。原稿は机の上に置き、時折目線を下に落とすことはあるものの、前を見て堂々と原稿を読むのが通例だ。

 しかし、その李氏に異変が起きた。5月8日に中国で開催された、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長と中国の習近平国家主席による2度目の首脳会談を報じるニュースでは、乱れ気味の髪に、眼鏡姿で登場。10枚以上はある原稿を両手で持ち、下を向いたまま読み続けたのだ。

「首脳会談のニュースが、いかに突発的な対応だったかということでしょう」(高さん)

 情報統制が徹底され、謎に包まれる北朝鮮。李氏の“演技”から国内事情を垣間見ることができるかもしれない。米朝首脳会談に向け、北側クリステルから、ますます目が離せない。(本誌・松岡かすみ)

週刊朝日 2018年6月1日号

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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