「例えば、スタッフや講師との対話を通じて、牡蠣に関心を持った生徒がいました。自分で研究し、養殖工場にも職業体験に行って、オイスターマイスターという資格もとった。最終的にAO入試で慶應の環境情報学部に進みました。誰の中にも眠っているエネルギーを爆発させたい。それに賭けようというのがAO・自己推薦入試です」

 入試で重視されるのは自分で書く志望理由書だ。大学ごとに「どのような学生を求めるか」をまとめたアドミッションポリシーがある。それに合うように、自分の能力や実績を書き込む。高校時代に取り組んできたことと、入学後に深めていきたいことを結びつけ、「学ぶ意欲」をアピールすればいい。

 面接では受け答えを通じて、コミュニケーション能力もチェックされる。小論文では社会問題などについての理解が問われることもある。

 慶應義塾大総合政策学部2年生の渡辺大起さんはAO入試で入学した。志望理由書や面接では、高校の水泳部で副キャプテンとしてチームをまとめたことや留学経験を説明した。実家が葛屋なので、「葛餅を世界に広める」という将来の目標も語ったという。

「水泳部での活動と受験を両立するためにはAO入試が自分に合っていると思いました。留学したことで、和食は人気があるのに和菓子は知られていないことに気が付きました。葛餅を世界に広めるために、経営やマーケティングなどを学びたいとアピールしました」

 AO・自己推薦入試に絞る受験生もいる。

 早稲田大文化構想学部国際日本文化論プログラムに今年入学した市川優佳さんは、高校2年の夏から1年間米国に留学した。そのときから、AO・自己推薦入試を意識していたという。

「留学で日本と米国の文化の違いに関心を持ちました。日本文化を伝えるイベントを開き、地元のテレビ局に掛け合って取材もしてもらいました。面接では、日本文化の発信に興味があることを伝えました」

 早稲田大の入試は、志望理由書や面接で英語を使う必要があり、決して簡単ではない。市川さんは「自分がやってきたことを物語にしているようで、楽しかった」と振り返る。

 早稲田塾の斎藤さんは「学ぶ動機づけができれば必然的に学力も上がる」と指摘する。大学側の調査では、AO・自己推薦入試での入学者は、意欲的に学ぶため一般入試の入学者よりも成績がいい傾向があるという。

 今後もAO・自己推薦入試は“門”が広がっていく。うまく活用することが、志望校への最短ルートになりそうだ。(本誌・吉崎洋夫)

週刊朝日  2018年5月18日号

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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